暖かな日々   〜風便り〜





日が差し込む、先ほどまで闇に包まれていた空が浄化されるように薄れ眩しいくらいの光が徐々に昇り始めた。
少しずつだが復興を遂げ始めてきたラハン村が光を反射するように輝いて見える。
ふと、絵筆を進めていた青年はその手を止めた。
彼の瞳には煌々と光り輝く太陽が映し出されていた。

「もう・・・朝なのか」

彼はそう呟くと絵筆を置き、吸い込まれるように窓へと近づいていく。
カーテンに手をかけ、軽く力を込めて窓枠を押した。
開かれた窓からは心地よい風が吹き、優しく頬を撫でる。
長い黒髪をなびかせながら頭に手を当てて考えた。

確か自分は晩飯を食べたあとに絵を描き始めていたはずだ。

それがもう外が明るいと言うことは・・・。
どうやら夜通しで絵を描くことに没頭していたらしい。

「人間、夢中になると時間の感覚がなくなるんだなぁ」

一人しみじみ呟いていると小鳥達が挨拶をしてまわるように自分の周辺を飛び回った。
彼はこの瞬間が好きだった。
世界が平和になったと実感できるからだ。
しかし、彼の友人は少し違うらしい。
日に焼けた浅黒い肌と金色の髪の間から見え隠れする一片のターコイズブルーの瞳が印象的なその友人はこう言うのだ。


『ギアで一暴れしていた頃が懐かしい』


・・・確かに懐かしいとは思う。
あの時はみんな生きること一生懸命で辛い戦いの中だったけどそれでも助け合い、楽しく過ごしていた。
些細なことで喧嘩をし、ちょっとしたことで笑い合っていた。
みんな一緒でとても心が温かくなるときだった。
でも彼はその生活が崩れてもこの平和なときが来ることを願った。
それは彼の友人もそうなのだが彼とその友人の取り巻く環境の違いがその答えを出していた。
友人は世界が平和になると自国へ戻り中心となって復興を指揮している。
反対に彼はその友人や他の仲間達に半ば強制的に休養を余儀なくされた身だった。


「ふう。さてと、どう・・・」

窓から見える景色を眺めながらちょっと前までの日常を思い出していた彼は溜息をつき次の行動を起こそうと顔を上げた。
顔を上げるのと同時に扉がノックされ、軽やかに開かれる。

「フェイ!起きて朝ご飯が出来たわ」

扉の向こうに立っていたのは鮮やかな橙色の髪をした美しい女性だった。
窓のところに立っている青年−−−フェイは扉のほうに振り返ると驚いたようにその女性に話しかけた。

「エリィ!!早いな。もう動いて平気なのか?」

エリィと呼ばれた彼女は彼の言葉に眉をひそめて拗ねたような顔をした。

「もうっ私は全然平気だったいったじゃない!!そりゃ戦いが終わったときはダメだったけど・・・」

「あっそうか。そうだったな。わかってるはずなのにエリィに体調聞くの癖になったみたいだ」

フェイは気まずそうに頭をかくと真剣に考え込み始めた。
彼女−−−エリィは長い間デウスの部品として取り込まれていた為か、戦いが終わり仲間のもとへ帰還したときには自分の足で歩くことが困難な状況になっていた。



彼女がこうなったあと仲間達との話し合いにより『エリィの身体がよくなるまで』という条件付で彼らは押し切られる形でこのラハン村で静養することになった。

今ではこうして元気に動き回っているエリィもここに帰って来た当初は食べることもままならなかったのだ。
だから、頭ではわかっていてもどうも彼には頭より先に「大丈夫か?」という言葉が口に出てしまう。
苦笑いを浮かべるフェイにエリィは優しく笑った後にいきなり表情を変え、腰に手を当て彼に向かって怒った口調で言った。

「いいのよ。それだけ心配かけたんだし。それよりフェイ!!ダメじゃないっまたろくに寝ないで絵を描いていたのね!!!」

「ご・・ごめんっでも何で寝てないってわかったんだ?」

「嫌でもわかるわよ。だってベットに寝た形跡がないんだもの」

エリィはふっと息をひとつ落とすと諦めたように笑った。

「寝なかったのは悪かったけど・・・ほらっ見てくれよ。たった今完成したんだ!!」

そう自慢げに言うと彼女の前に一枚の絵を広げた。

「わぁっ完成したのね!!」

1枚の大きな絵が彼女の前に出されるとエリィは歓喜の声を上げた。
キャンバスに描かれているのは少女と青年の2人。
2人とも純白の衣装を身に纏い、今にも動き出すように鮮明に描かれていた。

「でも、かっこよすぎない?」

エリィの第一声はそれだった。
彼女は青年のほうに目を向けたまま真剣な顔をして言った。

「やっぱり似てないのか・・・」

自分ではなかなか似てると思って描いていたのでフェイは自信なさ気に頭を垂れた。

「ふふふ。冗談よ。本物みたいにそっくり・・可愛い」

そんなフェイの反応に満足したのか彼女はくすくすを笑いながら少女のほうに手を伸ばすと優しく微笑んだ。

「なんだ冗談か、よかった。エリィにそう言ってもらえると安心だ。ちょっと心配だったんだ」

フェイは褒められたのが嬉しいのか気恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「これならみんな驚いてくれるわよ!!・・・・それにしてもフェイ。よくこんな服描けてわね」

まるで自分が描いたかのように自慢げに言うエリィは少女と青年が着ている服に目がいった。
絵の中の2人が着ている服はとても綺麗で気品のあるものだった。
とてもじゃないけど一般人が着れるようなものではなかったのだ。

「ああ、それはこれを参考にさせてもらったんだ」

そう言って彼が出したのは何十枚にも重なって束になった手紙だった。
エリィが覗いて読むとそこには事細かに服のデザインから説明までがびっしりと書きとめられていた。

「わぁすごい。これを送ってくれたのってあの人でしょ?さすがだわ」

「うん。自分達が無理言って描いてもらうのだからこれぐらいは当たり前だって」

ペラペラと手紙をめくりながら呟く彼女にフェイは言った。

「もうすぐ結婚かしら?」

思い出したようにエリィはめくっていた手を止め、フェイのほうの顔を向けた。

「やっぱりそうなんじゃないかな?俺にこんな絵を頼むってことは・・・」

そう言うと彼は出来上がった絵に手をかけ、移動を始める。
それに合わせてエリィも足を進めた。

「それじゃあ、早くみんなの所に行かなきゃいけないわ!!」

隣を歩くエリィはポンッと手を鳴らすと決意を固めた。

「もう、身体は平気なんだな?」

「ええ。いつまでもみんなに迷惑かけてられないし、早く行かなきゃせっかくのドレス姿が見れなくなっちゃうっ」

急いで旅の準備しなくちゃと小声で呟きながら考えるように部屋から出ようとする。
フェイはそんな彼女の姿を目に焼き付けながら苦笑した。
元気になるとすぐこれだ。
苦笑するしかなかった。
また、倒れたりしたらどうするんだと思いながら元気に動き回る彼女を見れて嬉しい思いに溢れた。
そして彼は思いを固めた。

「よし、この絵が乾くと同時に出発しようか」

「そうしましょう!」

フェイの言葉にエリィは喜んで同意を示す。

「じゃあ、出発する前に手紙でも出しとくか」

「そうね。いきなり行ったらみんなに怒られちゃうわ」

「みんな怒るとこわいからなぁ」

仲間達の顔を思い出し2人は同時にクスクスと笑い出した。



朝陽が窓から暖かく照らし始める時間。

2人の笑い声は優美な自然の中に響いている。



「さあフェイ、朝ごはんにしましょ」

「そうだな」

まだ含み笑いが解けていない2人は並んで部屋を出て行った。



































「ええっ歩いていくのかい!!」


数日後の晴れわたる昼下がりに驚嘆の声を上げた村の女性のアルトが村の入り口で響いた。

「そのつもりです」

村の女性とは反対に返した言葉は和やかな声色だった。
少し大きめカバンをもって村の前に立つエリィはにこにこと笑っている。
そんなエリィを心配するかのように女性はあわてて言った。

「でも今から出たら・・黒月の森をぬけるんだし」

「大丈夫だよ。夕方過ぎたくらいにはダジルにつくからさ」

女性の不安を取り除くような声でフェイは話にわって入った。

「無事にアヴェに着いたら手紙を送りますから、ね」

それに続く形でエリィは優しく語りかける。
女性はエリィの笑顔に負けてしまった。
ふぅと溜息を落とすと女性は活気ある笑顔で笑う。

「まぁ、あんた達なら大丈夫だとは思うけど気をつけて行ってらっしゃい」

フェイとエリィは女性に極上の笑顔を見せると荷物を手に取り、ゆっくりと森に向かって歩き始める。
だんだん遠くなる2人を見つめながら女性は手を振って叫んだ。

「手紙忘れずに書いておくれよ!!」

声が聞こえたのか2人は振り返り手を振っている。
フェイが何かを言っているように見えるがもうここからじゃ聞こえない。
そして2人は女性の視界から姿を消えていった。




心地よい風が吹くこの時期、2人は長い髪をなびかせながら手と手を取り合い、壮大に広がる自然の中へと足を踏み入れていった。

風と共に親しい彼らのもとへ・・・。

この先に待つ懐かしい再会を心に抱きながら。








+++Postscript+++


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送