Promise    5話 約束





何時間ここに座り込んでいるのだろう。





青かった空はもうすでに薄紫色に染まっている。
夕暮れを象徴するオレンジはとっくに通り過ぎてしまったようだ。
先ほどまで止まっていた風は再び力を取り戻し、少し強めの空気の流れを作った。





自分はここにいつまで居ればいいのだろう。





座り込んだまま思うように動かない体に疑問を抱きながら漠然と思った。
目の前に白い花びらが風に流され宙を舞う。
不意に涙が溢れそうになった。





どうして自分は再び彼と出会ってしまったのだろう。





そう思うと余計に胸が締め付けられて痛い。
彼のことは忘れることなんてできないとわかっていた。
忘れるつもりなんてさらさらなかった。
でも・・・なぜ、会ってしまったのか・・・・。
2回目の出会いは唐突で・・別れも勢いよく走り去るように早くて・・・。





どうして彼はここに居ないのに自分はここに留まっているのだろう。





このまま何も気にせず泣き叫べたらどんなにいいか。
もう泣いてしまおうかと思ったその時。
緑の瞳が頭を霞めた。
ぐっと唇に力を加えて目尻から熱く流れそうになるものを堪えた。




『泣く前に笑えよ』




彼が耳元で呟いた気がした。
濡れている瞳をこすり口元を微笑んで見せた。




『いつもそうやって笑ってろよ』




反芻するようにさっき彼が言い残していった言葉が耳を通り過ぎていく。
彼女は誰にも聞こえないように口に含みながら言った。




「約束・・守るよ。シオン」




顔を上げると一面に広がる空に向かって微笑んだ。
気持ちのいい夏に吹くカラッとした風を思わせる笑顔。
彼の・・・・シオンの好きな表情だった。


























『イリアー!』
遠くのほうでいつも耳元で聞く可愛らしい声がした。
その方向に振り返るとレムが己の顔より少し大きめの果物を両手いっぱいに持ってこちらにやってきていた。
「レム!どうしたの?そんなにいっぱい持ってかえってきて」
『おいしかったからみんなで食べようと思ってね。採るのに夢中になっていたら道に迷っちゃって・・・シオンは?』
ふわりと顔に近づくときょろきょろと辺りを見渡した。
小さな彼女の目には探し求めている人物は映っていない。
「シオンは・・・・。うん、行っちゃった・・・」
『!!』
「レム・・。悲しまないで・・・・ね」
レムは両手いっぱい持っていた果実をすべて落とした。
涙で瞳をぐしゃぐしゃにしてイリアの胸に飛び込んだ。
『イリア、イリア・・・ごめんね。辛かったでしょ。1人にしてごめんね』
「ううん。いいんだよ」
イリアは手のひらに乗る彼女を優しく包み込んだ。
レムが落ち着き始めるとイリアはにこりと微笑む。
「ボクは大丈夫。約束したから平気だよ」
『約束?』
涙を拭いながらレムは不思議な顔をした。
その顔が面白かったのかイリアはふきだして笑い出す。
笑いを堪えながら彼女は言った。
「そう、約束。だからもう泣かないの」



レムの心は少し晴れた。
今の彼女はこれ間までの彼女とはちょっと違う。
物悲しそうにぎこちなく微笑む彼女ではない。
数年前、少年として旅をしていた頃のように心から笑っているように見えた。
それが嬉しくて、また涙が溢れ出た。



「どうしたのレム?どこか痛くなったの?・・・悲しいんだね?」
『違うわ。あなたが笑ってくれて嬉しいのよ、私』
レムはイリアの手の中から飛び出し、彼女の頬に擦り寄った。






















『さあ、もう日も暮れたし行きましょう』
顔を上げたレムが言った。
「行くって・・どこに?」
間抜けなイリアの言葉にレムは脱力した。
とうの彼女は首をかしげて考え込んでいる。
彼女にはどこに行くのかが本当にわかってないらしい。
『もう〜。カイたちを捜しに行くんでしょうが・・・・』
力が抜けた体を何とか起こしながらレムは消えそうな声で呟いた。
その言葉にイリアはぱっと表情を明るくした。
「あっそっか!ボクたち別行動してたんだよね」
『そう。だから捜しに行くのよ』
「じゃあ早いほうがいいね。行こうか」
イリアは立ち上がるとレムを肩に乗せ、花の間をすり抜けながら美しく広がる花畑を後にした。























「お姉さーーん」
半刻ほど歩いていると後ろから聞き覚えのある声がした。
振り返ると小さな少年が一生懸命にこちらに走ってくる。
『あら!十六夜だわ』
「本当だ!やっと会えたね〜」
レムは肩から降りると十六夜に向けて飛び始めた。
十六夜の後ろからにはジェンド、カイの姿がうっすらと見える。
イリアはほっと息を落とすと無事に彼らに会えたことを喜んだ。
自分も彼らのところに行こうとすると不意に風が目の前を通り過ぎる。
優しい流れが彼女を包んだ。




「見ててね。きっと笑えるから・・・・・」




まるで風の正体がわかっているかのようにその言葉だけ伝えると駆け出す。
軽やかな足取りでみんなのもとにたどり着くとゆっくりと今までいた場所を振り返った。
そこには風の吹き溜まりができるばかり。
彼女には彼がいる気がした。
満悦の笑みを見せると先を進む彼らの後を歩き始めた。




















『泣く前に笑えよ』








もう泣きません。








『いつもそうやって笑っていろよ』








あなたがそういうならずっと笑っていられます。








『イリア約束守れよ!!』








守ります。












だから・・・ずっと私を見ててください。
















そしてきっといつかは。





















会えるよね、シオン。







+++Postscript+++



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