「いやーさすがに今日はびっくりしたな」

「そんな呑気に言うな。有り得ないだろうが」

「まぁ、何もなかったしさ。いいじゃん」

「・・・」





食事をしているとき主に喋るのは2人だ。
というかいつの場面でもひっきりなしに話しているだけなのだが。
それが今日は違った。
無愛想な奴が珍しくポツリポツリと会話に入ってきているのだ。
それはこの状況の中、見張りも立てずに3人して寝こけてしまっただけなんだけど・・・。
今まで有り得なかったのでちょっと面白い。
石を温めただけの天然のフライパンの上でパンを焼く手がいつも以上に楽しげに動く。
今日は槍でも降ってくるんじゃないかと内心ドキドキしながらバッツは新鮮な光景を眺めていた。

















帰る場所の話
















「ひっかしバッふはなんでもでひるな」

受け取ったパンを頬張りながらジタンは不意に漏らした。
焼き上がったばかりで思いのほか熱く上手く喋れないが懸命に動かす。
バッツはその様子に軽く笑いを抑えながらは口を開いた。

「何が?」

「俺はある程度道具やら材料揃ってないとなんも作れないからさ」

とんとんと胸を叩いてパンを胃に流し込む。
絶妙に塩がきいて美味い。
これなら何個でもいけそうだ。
褒められたのが嬉しかったのか少し照れながらバッツはのほほんと答えた。

「慣れてるからなぁ」

「俺は大量に草摘んできて何をするかと思ったけどな」

急に割り込んできたスコールは寝る直前に両手いっぱいに抱え込んで帰ってきたバッツを思い出して溜め息をついた。
それは何だと聞いて真顔で朝飯だと言われたとき、明日は草を食うのだと何とも言えない気持ちで夜を迎えたが本当に良かった。
手持ちの食料が尽きた今、バッツの存在は正直ありがたい。
俺はいつも携帯食に頼って料理なんて全く無理だし、ジタンもさっき言っていた通りなんだろう。
足元に落ちている自分にはただの雑草にしか見えないものを手にとる。
よく見ると一つ一つ違う種類のようだが採ってこいと言われても不可能だ。

「それはハーブだよ。そっちはこの実の臭い消しでこれが香りづけ。んで、ちょっと塩っぽい味しただろ?それがこっち」

「・・・」

全くわからない。
睨むように草を見ていると急に興味を持ち出したジタンがひょっこり間に身を乗り出してきた。

「へぇ、そんないろいろあるんだ。名前は?」

「さぁ?」

2人はあっさりと答えられた言葉に目が点になった。
当の本人は鼻歌を歌いながら昼飯をも作り始めている。
こんなに採ってきておいて名前を知らないなんてどういうことだ。

「じゃあ買うときどうするんだ?」

「んー、店の人に話して出してもらう。それもめったにないな。こんなんそこら辺に生えてるし」

ある程度効力伝えたら出してくれるんだよと明るく笑い飛ばしてくれる。

「お前変なところ大雑把だな」

「そうかな〜」

スコールの溜め息を気にもかけずにのんびり返したものの、以前店の店主に同じことを言われたのをふと思い出した。
確か前のときも回りくどい奴だとか言われ放題だったが・・・。
とそこまで考えが巡ってからぴたりと止まる。







・・・・・・・・思い出した?






何故?





ここにくるまでの記憶なんて今までなかったのに。
いつの間にかここにいて、コスモスに請われ戦いに身を投じたんだ。
いつか帰れるだろうと暢気に考えながら・・・。








帰れる?





そうだよ。





これが終われば帰れるんだよな。


というか帰るつもりだ。


今日は始めからどこかおかしい。
ここでパンなんて作ったこともないのに慣れてると言ったんだ。




そうだよ。






旅に慣れているんだ、俺。







これはもしかして・・・。























「な、今日なんか夢見た?」

「なんだよ急に」

いきなり口を開いたバッツの真剣な顔にジタンもスコールも戸惑いを隠せなかった。

「構えないで気軽に考えて。なんか見た?」

「構えるなと言われても・・」

「俺見たよ。覚えてるのは歌だけだけど」

考え込むように黙り込んだスコールとは反対にジタンは見たこともない優しい顔を表に出した。

「へぇ、どんな?」

「すげーきれいな歌。懐かしいような、ずっと聴いていたくなる。そんな感じなんだけど・・・・なんでかさぁ、歌えないんだよね。」

残念そうに首を左右に振ったが宝物を見つけたときよりも数段いい表情をしている。
それだけ特別なものということだ。

「ふーん、歌かぁ・・じゃあスコールは?」

「俺は別に」

ふいっと顔を背けた奴にぴんときた。
短い間でわかった癖だ。
こいつは言いにくいことがあれば目線を逸らすんだ。
ジタンも気づいたのか目が合った瞬間、お互いにやりと口を歪ませる。

「俺たちの仲だろぉ?」

「・・・・・・(どんな仲だ)」

「笑わないからさ、お兄さんに話してみろよ〜」

「・・・・・・(どの面さげてお兄さんだ)」

スコールの無言の抵抗を跳ね飛ばしぐんぐんと迫っていく。
一言でも口を開けば負ける。
スコールは焦りながらも冷静に判断を下していた。
口下手な俺がこの2人に勝てるはずない。
ここはこいつらが飽きるまで黙秘に限る。

「おっこれなーんだ!」

「あっ!」

拳を握りしめ堪える体勢に入った途端、ジタンに懐からはみ出していた物を盗られた。

「なんだなんだ?」

「羽根だ」

「返せ」

手にした白い羽根を眺めていると、どこか慌てた様子のスコールが素早く手を伸ばすがすんでのところでかわされる。
スピードでこの盗賊に敵うはずがない。
ジタンはにやりと悪戯な笑みをみせた。

「そんなに必死ってことは今日の夢と関係あるとか?」

「彼女はべ・・っ」

口下手な男は自ら地雷踏んだ。
慌てて口を閉ざすが最早手遅れで、爛々と瞳を輝かした2人が目の前にいる。

「スコール!彼女いるの?!」

「そっかぁ、恋人が待ってるのか!」

「・・・っ」







・・・・終わった。
朝っぱらから失態ばかり犯しているのに止めはこれだ。
コスモスは見守ってくれているんじゃなかったのか・・。
クリスタルを手に入れた今、本当に見守っているだけなのかもしれない。



スコールが遠くを見つめながら物思いに耽っている隣でジタンが怪訝な顔を見せた。



「・・待ってる?」



バッツの言った言葉が引っかかっているらしい。
顰め面で振り向いた彼が見たのは最上級の破顔だった。

「そだよ。スコールの彼女、帰るところで待ってるんだろ」

「帰るところか・・・・なんかいいなそれ」



帰るところ。



その一言が胸の中にすっと溶けていった。
ひっかかりも何もかも全て呑み込んで綺麗に流れていく。
心が軽くなる。
すごくすごく晴れやかだ。
自然に笑みが広がっていた。
クリーンになった彼がやり残していることがあるとしたらひとつだけ。
気を取り直し、また悪戯な表情を浮かべながらスコールに特攻をかけるだけだ。








「な、な、彼女可愛い?それとも美人系?」


「〜〜〜・・っっ」


















「これのおかげかな?」

昨日ようやく手に入れたばかりのクリスタルの表面に映った自分と目が合うとバッツは呟いた。
応えてくれるようにクリスタルは一瞬輝きを増した。

「…バッツはどうなんだ」

負のオーラを隠すこともせず、いきなり背後から湧いて出たスコールは睨みながらバッツの肩に手を置いた。
ジタンに遊ばれ今日が始まったばかりだと言うのに顔は既に疲れ切っている。
















「あったいところだよ」











これで少しでも反撃をと思っていたようだがバッツは晴れやかに微笑んであっさり言った。









    ↓オマケ↓























こんなんだからこの3人組みは人気なんだろうね 笑
突くネタがありすぎてたまらないですっっ
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