「ふう・・何とか日暮れまでには村につけたな」


そう言うとバッツが戦闘で少し汚れた茶色い髪をはらった。
4人はルゴルの村に着いたばかりだ。
バッツ、ファリス、レナの3人がガラフのあとを追ってこちらの世界に来たのは一昨日の昼頃。
着いて早々エクスデスに捕まったが、ガラフの手により助け出された。
4人再会し喜んでいたが、エスクデス城の周りを囲むように聳えるバリアの塔の結界が襲い掛かった。
全員離れ離れにならずよかったのだが・・・・ガラフの話によるとここはグロシアーナ大陸。
ガラフの帰る場所からかなり離れているらしい。
仕方なく4人はこの大陸から出る方法を求めて、陸が続く南東に足を進めていた。
しばらく歩くと、視界の遠くに多数の屋根が見えた。
どうやらこの先に村か町かがあるようだ。









「おおっここはルゴルの村ではないか!!」

「ガラフ、知っているの?」

「酒がうまいと評判の所じゃ。わしもはじめて来たのぅ」

「「何っ酒!?」」

ガラフとレナの会話に飛び込んだのが2人。
バッツとファリスだ。
酒で有名と聞き、酒好きの2人は瞳を輝かしている。
レナは深い溜息をついた。
こうなった2人は止められないのだ。
きっと一晩を酒場で過ごすことになるだろう。

「なぁなぁ、ファリス!一通り買い物すんだら行こうぜ」

「いやぁ〜久しぶりの酒だなぁ♪」








それに何よりこの2人は飲む気満々のようだ。
彼らのその様子にガラフはレナに苦笑いを見せただけだった。
レナもガラフにあわせて引きつった笑いを見せる。
老剣士と王女は困ったように互いに笑みを返すと前を騒ぎながら歩く2人組に視線を向けた。
嬉々とした様子で軽やかに歩くバッツ。
そしてその隣で溢れんばかりの笑みで喋るファリスの姿。
2人とも話している内容はこれからどうするかとか、武器の調達や薬草や薬の補充のことなのだが顔の表情からすると彼らの頭の中は酒一色に染まっている。
レナは本日2度目の深い、それはとてつもなく深い溜息を落とした。




















「もう!2人ともいい加減にして!!何時だと思ってるの!?明日も早いのよ、寝てちょうだいっ」

案の定、その夜酒場からはレナの怒声が響き渡った。
メンバーの中で絶対的権力を持っているのはレナだ。
怒っているのににこにこと冷ややかな笑顔を見せられると皆何も言えないのだ。
こうやって怒っているうちに言うことを聞いていたほうが身のためなのはバッツもファリスもわかりきっていたので渋々とその言葉に従った。
服に隠して持って行こうとした酒瓶も没収された彼らにはもう眠ることしか選択肢はない。
久しぶりに酒の美味い村に来れたというのに気の済むまで飲むことが出来なかったバッツとファリスは名残惜しそうに酒場を後にした。






























夜。
闇が深くなった頃バッツは不意に目を覚ました。
寝つけなくて苛ついた体をゆっくり起こす。
少し損した気分になる。
酒の量が足りなかったんだろうか?
早々とレナに止められたことを思い出した。
項垂れた溜息を落とすと静かにベッドから抜け出す。

飲み直しに行くか。

机の上に無造作に脱ぎ散らかしていた上着をはおり、ブーツに足を突っ込んだ。
靴を履く音が静かな部屋に響く。
慌てて音を抑えて隣に眠っているガラフのほうを見た。

「あれ?ガラフ・・・」

そこには誰もいない。
ガラフの姿は部屋から消え失せていた。





どこにいったんだろう・・・。





そっと立ち上がると部屋を出る。
隣の部屋のファリスとレナを起こさないように静かに気配を小さくして横切った。
階段を下りると真っ暗の中に淡いランプの光が灯っている。
吸い寄せられるように外への扉を押した。





「うわぁ・・っ」





空は満天の星の海。
一気に落ちて来るんじゃないかと心配してしまうくらいに広がっていた。
久しぶりにまじまじと眺めた夜空はとてつもなく綺麗だ。
呆然と空を見上げていた俺を夜の冷たい風が正気に返してくれる。

「うぅ・・・寒っ酒場に行くか」

自分の懐具合を確かめながら酒場に足を向ける。
チャリっと小銭の音が耳元に響く。

これなら体を温める程度は十分に飲めるはずだ。
一人微かに笑みを漏らしながら煌々とランプが光る酒場へと足を伸ばした。




















「いやーたまらんっこれが、幻のルゴルの酒か!喉に、沁みるわい!!」

カラン、カランと扉の鐘の鳴る音が聞こえると同時に聞き覚えのある声がした。
その声に導かれて店の奥に入ると・・・・。
見つけた。
隣のベッドの住人を瞳におさめた。





「どうしたバッツ?」

いきなり声をかけられて肩を震わせる。
絶対気づいていないと思っていたのに・・・。

「いや・・ちょっと寝つけなくて」

「そうか。まぁ、座れ」

素直にバッツはガラフの前に腰をかけた。










ずっと感じていた違和感があった。
ガラフと再会してからずっと・・・。
記憶が戻った、というのも理由に入るかもしれないが妙な違和感だ。





もしかすると・・・。


怒っているのかもしれない。



来るな、と言われたのにのこのこやってきて、助けるどころか逆に迷惑をかけた。
俺たちが捕まったから全滅は防げたとガラフは言ってくれたけど釈然としない。
ガラフはいつもどおり振舞っているんだろうけど、何かが違う。
どこが違うと聞かれても答えられないけど、彼がどこか遠慮しているように見えた。















「バッツ・・何故来た?」















そう口を開いた彼に少なからずバッツは驚いた。
何故そんなことを聞くのだろうと・・。
怒っているかもしれないと顔を上げて目を合わせてみればそんな素振りはまったくない。
本当に理由がわからず困惑しているように見えた。
どうしてわからないんだろう・・・。
とても簡単なことなのに。


「何故ってガラフを助けに・・・」


「そんな・・もう戻れんのじゃぞ?」


「わかってる。・・・・でも、仲間だろ?」


すっと出してきたバッツの答えにガラフは言葉を失った。

「ガラフ?」

真正面に構えたまま動かない初老の戦士にバッツは怪訝な表情を見せた。
いくら声をかけてもうんともすんとも言わない。
それどころかピクリとも動かないのだ。

「どうしたんだよ、ガラフ?」

何度目かわからないくらい声をかけた直後、ガラフは勢い良く頭を深く下げた。
テーブルに額をぶつけるんじゃないかと思うくらいものすごいスピードで。





「・・・ありがとう!!」





「え・・・」

今度はバッツが喋れなくなってしまった。

「ありがとう・・」




ガラフはそのままの格好からぴくりとも動かない。










泣いているのかと思った。

顔を下げたままいつまで経ってもこちらを見る気配がない。


人の涙ほど苦手はものはないんだけど・・・・。




「ガラフ・・」




「バッツ!飲むぞっっ付き合わんか!!」




がばっと顔を上げるといつものように豪快な笑みを浮かべたガラフいた。
肩をしっかりと捕まれグラスに並々と酒が注がれる。

もしかしなくても・・・かなり酔ってるのか?





「ガラフ!あんまり飲みすぎると明日が辛いぞ?」

「何を!?わしの酒が飲めんのか!!」

「もう手遅れなんだな・・・」




もう諦めの溜め息しか出てこなかった。

























「バ〜ッツ〜・・・これはどういうことかしら??」

朝、寝坊をした俺の目の前にこれまでないくらい怒ったレナが立っていたのは言うまでもない。






                         E N D




+++Postscript+++


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