傷跡





「やだ!その傷どうしたの姉さん!?」




レナが口を押さえてオレのところに詰め寄った。
いきなりのことで何事かと思ったがふと自分の腹を見て動きを止めた。

「傷?ああこれのことか」

オレは着かけたタンクトップを捲りあげて言った。
右腹の横に少し目立つ傷跡が縦に入っている。
傷の感じからして最近出来た傷ではない。

「本当だ!!結構大きいね。痛そう〜・・」

クルルがマジマジとオレの腹を眺めてくる。
まだ着替えの途中なんだけど、クルル。
そんなに見つめてくれるな・・・。

「もうっどうして早く言ってくれないの!治さなきゃ!!ケアルを・・」

「いいんだ!!」

ケアルを唱えだしたレナを慌てて遮った。

「いいんだよ、随分前の傷だから・・」

「どうして?せっかく綺麗な体してるんだからもったいないわっ」

「・・・っっい・・いきなり何言い出すんだお前は!!!」

「レナお姉ちゃんの言うとおりだよぉ。もったいないよ」

「クルルまで!!!」

真剣な顔をしながら力説する2人にファリスは顔を真っ赤にして言い返した。
反応を面白がるようにレナとクルルはくすくすと笑い出す。
この傷だらけの体のどこが綺麗だって言うんだ!!
どう考えたってお前ら2人のほうが綺麗な体してるだろうがっっ
からかわれているとわかっているがファリスは思うように反論出来ずにいた。
この少女たちには勝てる気がしないのだ。
結局最後はいつもまるなげして逃げてしまう。

「ったく、そんなおだてたってなにも出ないぞ」

「あら、本当のこと言っているだけよ」

ねぇ、と促されたクルルは景気良く頷いている。


この娘たちは・・・。


大急ぎで着替えを終わらせるとオレは扉へと早歩きで急いだ。
振り返ると2人は可愛らしく笑みを漏らしている。
これ以上ここにいるのは危険だ!!
そう判断したオレはドアノブへと手を伸ばす。

「本当に治さなくていいの?」

「いいの!大事な傷なんだよ、コレは」

飯に行ってくると言い残して大慌てでオレは部屋を飛び出した。
微かに扉の向こうから笑い声が聞こえた気がした。

















「何を騒いでたんだ?」



階段で出くわしたバッツは苦笑をしながらオレに話しかけてきた。
溜め息をつきながらオレは首を振った。
3人部屋じゃなくて今回も2人部屋で宿取ればよかったのに・・・。
なんでOKを出してしまったのか。
ちょうど3人部屋も空いていたし、久しぶりに女同士で寝ましょうとあの2つの可愛い顔でお願いされたら誰も断れない・・・と思う。

バッツは声を殺して笑い出した。
余程ひどい顔をしているんだろう。
バッツ・・・お前も一度あれを味わってみるか?
絶対お前も音を上げるぞ。



「あー・・昔作った傷跡を見られた」

「傷跡?」

「そ、傷跡」

「それでなんであそこまで騒いでいたんだ?」

彼はきょとんとした顔を傾けた。
それはオレにもわかんねぇよ。
心底驚いて返してくる男にオレは激しく同意をした。


「んで、治そうって言われた」

「・・・それで騒いでたのか」

「そう」

力なく返したオレにバッツはお疲れさんと声をかけてくれた。
オレが詰め寄られたことをお前は知ってるんだな。
まあ隣の部屋だし、あんな声のでかい会話はほとんど丸聞こえだろう。


「でも、なんで消さないんだ?めんどくさいとかじゃないんだろ」

相変わらず的を射たところをついてくるんだよなぁ・・こいつは。

「大事なんだよ、この傷は・・・シルドラとの兄弟の証なんだから消せないだろ?」

そっと右腹を撫でた。
シルドラと初めて会ったときに出来た傷。
そりゃぁ、レナとかクルルにしたらただの傷跡なんだけどさ。
オレにとっちゃあ大事な思い出で・・・。








消すことなんて出来ないじゃないか。







「じゃあ無理だな」




バッツは至極あっさり言いのけた。
こいつのこういうとこが結構気に入っていたりする。



「当たり前だろ」







オレは今日一番の笑顔で答えた。






                         E N D




+++Postscript+++


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送