*「カケヒキ上手」後の設定です。







意外にお城の生活は快適だった。
どこでも窮屈で閉鎖的な感じかと思っていたけどそんなことは全くなく、逆に明るくてはみんな元気だ。



古代図書館のほうがみんな籠もっているかも。
基本的に引き篭もりだもんね。
でも今頃は虫干しの時期だからそんなのんきなこと言ってられないか。



窓の外に見える色とりどりに染まった木々が美しく並んで顔を覗かせている。
葉が色をしっかりかえてからの最初の晴れの日、年に一度の虫干しの作業は開始される。
毎年毎年この時期は研究を止められ学者たちは決まっていい顔をしない。
一旦始まると図書館の膨大な書物のおかげで先1ヶ月は確実に拘束されるからだ。


みんな嫌々始めるくせに途中で新しい資料とか見つけて興奮しちゃうんだけどさ‥。


ぼんやり窓を見つめながら自分の育ったところを思い出した。
馴染み深い顔が次々に思い浮かぶ。














元気にしてるかな。














考え始めたら急に懐かしくなった。
この3年の間、時間が空けば欠かさず足を運んでいたけれど、ここ数ヶ月何かと忙しくご無沙汰だ。



久々に顔を出しに行こうかな。





頼まれたやつもまとめないといけないし、ちょっと行って調べ物くらい大丈夫だよね。
ここだけじゃ資料揃わないからちょうどいいかも。
そんなに遠くないし、チョコボ借りたらすぐ着きそうだし。







あー新しい本もいっぱい入ってるんだろうな。







やばい。













本当に行きたくなってきた。
























「ミド殿?」

「あ、はい!何でしょうか?」

真後ろから声をかけられミドは肩をびくりと震わせた。
いきなりなんだと内心思いながら振り返って、己を恥じた。
光沢が美しい大理石の机には年若い学者たちが懸命にメモをとっている。
一番年長者らしい男の人が怪訝な顔を見せていた。

「質問よろしいですか?」

「もちろんです」



わ‥忘れてた。


ミドは慌てて資料を持ち直した。




そういえば僕クリスタルの増幅器の話してたんだっけ‥。
二度とあんな間違いをおこさないようにしっかりと伝えないと。
生活は豊かになるけれど長くは続かない諸刃の刃。
一度目はこうしてなんとか無事に治まったけど、次はどうすることも出来ないだろう。
絶対繰り返してはいけない。
あの時は小さすぎて何も出来なかった。
でも今は違う。
注意を促すことが出来る。
それを聞いてくれる人がいる。
やっと言葉を納得してもらえる外見が備わったと思うと嬉しかった。
ここの人たちはとても勉強熱心だ。
混じり合って間もないこの世界で懸命に知識を吸収しようという意識が強い。
ずっとエクスデスと戦っていたせいだけど、
こっちの世界の人は戦闘技術はすごいけど生活水準は低い。
平和な時間があまりにも無さ過ぎて暮らしを豊かにする暇もなかったんだよね。
何をすればいいかもわからないんだ。




里帰りのことばかり考えていたが、熱心な姿を見せられると言い出しにくい。
年若いと言っても自分より10も離れた人ばかりだ。
そんな人たちがこんな子どもに教えを請うのだから彼らの頭の柔らかさには脱帽するばかり。









試しに顔馴染みの学者たちを思い出してみるが空から槍が降ってきても有り得ない‥と思う。








みんないい人だけどプライドの塊だからなぁ。










そのことをふまえるとこっちの人たちは実に効率的であっさりしている。
わからないなら知っている人に聞けばいい。









この気質は見ていて気持ちがいい。












建て前と形だけの礼節、欲望と権力だけが渦巻く‥そんな世界とは無縁だった。














ミドは湧き上がる思いに向き合うのが怖かった。
















心地が良すぎてどうにかなってしまいそうなくらいに。











嘘と本当のその隙間











「こんにちは」

「やあ、こんにちは。今日もですか?」

「今日も、ですよ」


ここから見る景色が好きだった。
座ったときの高さが丁度良い。
重厚感がある砦のような城の向こうに見える高い山脈。
その間にある青い空がなんとも言えない。
暗めの城壁が空の青さを引き立てている。



きれいなきれいな青。



黒チョコボに乗ったときの見下ろす空もいいけれど、こうして見る空がいいと思う。
野原に寝転がってみたり、木に登って見るのもいい。
でも今の一番はこの場所。
バルの街の外れにあるこのカフェに行くことが最近の日課だ。
講義を終わらせて遅めのお昼を食べた後すぐここに来る。
ちょうどお昼のピークも過ぎて店内には店主のおじさんしかいない。
考えをまとめるにはぴったりの場所だった。


軽くいつもの挨拶を済ませると、ミドは椅子に深く腰掛け一息ついた。
すると、間をおかず目の前にミルクティーが注がれる。

「そろそろだと思って用意してたんですよ」

恰幅のよい店主はくしゃりと顔を崩して人の良さそうな笑みを向けた。
つられて口角を上げるとそのままカップに口をつける。


「やっぱり美味しい」

「それはよかった」

2人で笑みを交わす。
この時間が気に入っている。
人柄のいい店主、静かな店内に好みの景色。
どれを選んでもミドにとって最高のカフェだった。
その上、ここにいると頭も冴えてくるというおまけつきだ。
当分止められそうにない。
ゆっくり味わってからおもむろにテーブルに大量の紙を広げ始める。
すると店主は席を離れ、カウンターの奥におさまった。
こういう配慮がうれしい。
ミドうきうきしながら山のような報告書の束をまとめ始めた。














少年がやってきて3日目には彼はそうするようになった。



嫌でもそうするしかなかった。
紙を広げたこの少年に何を言っても聞こえるはずがないのだから。



昼を通り過ぎた後の珍しい時間に少年が日参するようになってもう2、3週間くらいだろうか。
まだまだあどけなさが残る少年はやってきた初日から抱えきれないほどの本と紙を持ってきていた。
見た目通りの年なら家の手伝いや友だちと元気に走り回っている頃だろうに
この子は1杯のミルクティーで3、4時間は粘る。
粘るというより何時間もひたすら本を読み紙に書き写す行為を繰り返している。
時折顔をしかめたりなど表情を変えることはあっても手は一切止まることはない。
そしてきりの良いところまでいくと満足そうに笑み浮かべながら残りのミルクティーを飲み干す。
それから辺りの暗さにぎょっとして慌てて店を飛び出して行ってしまう。
帰りに必ず清算とありがとうと笑顔を忘れないのが少年のすごいところだ。
仕事帰りの常連客の間ではもう名物になっている。
ここ2週間程は賭の対象だ。
今日は誰が勝つのやら‥。
軽い溜め息を落とすと彼は洗い物を始めた。
これから最低2時間はふたりきりなのだからゆっくり片付けよう。
ぼんやりとそう考えながら食器を掴む。
今日は少しいつもと違うことになるなんて思うこともせず、昼下がりの日常を過ごしていた。







1時間後に少女が少年の前に腰掛けるまでは。








Photo by 「空色地図」






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