もう少しこのままで・・・   前編












「あのね、一度タイクーンへ戻りたいの」












それはレナのいきなりの提案だった。
ウォルス塔で水のクリスタルが壊れてしまった。
今度は目の前で・・間に合わなかったのだ。









俺たちは・・・・。









しかし今は落ち込んでいる場合ではない。
一刻でも一秒でも早く火のクリスタルがあるカルナックへ行かなければならない。
だが、シルドラがいない船が動く訳もなく‥俺たちは途方にくれていた。
そこにレナがタイクーンに一度戻り情報を集めみては、と提案してきたのだ。
確かにタイクーンなら飛竜でも行ける。
城に行けば一般人が知らないような情報も手に入るだろう。
しかし・・・俺はレナから横に視線をずらした。
レナの隣にはいつもなら見惚れるほどの美貌の彼女の表情が苦しく歪んでいたのだ。














ああ、やっぱり‥。














バッツは変に納得してしまった。
彼女--ファリスにはタイクーンは鬼門なのだ。





















「オレ、レナと姉妹なんだと思う」






と告白されたのはついこの間のこと。
俺が彼女の正体に気づけたのはあのペンダントのおかげだしなぁ・・・。
レナも見ればわかるだろう。
タイクーン王家の象徴とも言われている小さな飛竜が彫られたペンダント。
今現在でそれを持っているのは王女であるレナとタイクーン王、そして幼いときに行方不明になったサリサ姫だけだ。
しかし彼女はまだはっきりすべてのことを覚え出せずにいるためレナにも自分の正体を告げれないままでいた。







俺もファリスもこのまま旅を続けてゆっくりといろんなことを思い出せばいいと考えていた。
だけど・・思い出す前にタイクーン城に行く破目になるなんて。
ついていないというかなんというか・・・・・・ただでさえ飛竜に乗って怖い思いをしているのに変な気分になりそうだ。









「タイクーンに行けばカルナックに行く方法がわかるのかもしれんのじゃな?」
そう言って話をきりだしたのは考え込んでいたガラフだった。
「ええ。その可能性が高いはずです」
レナは俺たちのほうをまっすぐに見つめて口を開いた。
彼女の表情とその言葉を聞いてタイクーン城に行かなくてはならないと悟った。









ファリスのことを除いても俺自身なるべくタイクーンには行きたくなかったのだが・・・・・。









今はもう一人で旅をしていた頃とは違う。
自分が嫌だからといって一刻を争うこのときに遠回りをするわけにはいかない。
「今何としてでもカルナックへ行くのが先決だ。少しでも可能性があるならそれにすがりつくしかないだろう‥よし、出発しよう」
俺の言葉にファリスの表情が変わっていくのが見てとれた。
どうやら彼女も同じことを考えていたらしい。
こうして俺たちはタイクーンへと飛竜を飛ばせたのだった。
俺は誰にも気付かれないように小さく溜息を落とす。










・・15年ぶり・・・・・・か。










作られた風の中、目の前に青い空が眩しかった。

























「お帰りなさいませ。レナ様」











門をくぐり、謁見の間についた俺たちの前に数人の兵士と1人の大臣が現れた。
「ご迷惑をおかけました。無事に戻ってきました。でも、またすぐに出なければなりません」
そう言ったレナの表情がいつもの彼女とは違って見えて、これが王女の顔なのかと思う。
少しレナが遠くなったような感じがした。
「しかし、レナ様。陛下が行方不明の今、あなた様がいなければ城はどうなるのです!?」
彼女の帰りを待ちわびていた大臣は声を荒げている。
「お父様は私が・・・私達が必ず見つけてみせます」
レナの真剣な瞳が大臣達を捕らえた。
決意は変えられないらしい。
すると大臣は諦めたように首を左右に振った。
「わかりました。一度言い出したら聞かないのでしたね、あなた様は・・」
「すみません。大臣・・・・」
「いいえ。陛下とレナ様がお帰りになるまで城のことは我々にお任せ下さい」
「お願いします」
レナは感謝の意を示すように深々と頭を下げた。





「今夜は城でお休みで?」
「ええ。カルナックのことを調べたいので2・3日はここにいようと思ってます」
そうレナが言い終わると大臣の顔はこの目で見てもわかるくらいみるみる明るくなった。
「そうですか!それではお客人方々にお部屋の用意を‥さあ、こちらへ」
大臣がファリスやバッツ、ガラフたちの方に歩を進めてくる。
ファリスは戸惑ったようにレナに目を向けた。
「大臣も言い出したら周りが見えないみたい」
レナは困ったような表情を見せ、少しだけ大臣に付き合ってあげてと言い残すと後からきた女官たちに連れられ謁見の間をあとにした。
「それでは皆様をお部屋にご案内いたしましょう。あ、申し遅れましたが私はこの城で大臣の任を任されているものでございます」
大臣を任されていると言った初老の男性は知っている顔だった。
俺がここを親父と訪れたときよく遊んでくれたのだ。
親父が陛下と話し込んでしまっていると嫌な顔せず俺に付き合ってくれた。
今はもう白髪が混ざってしまっている髪はまだまだ黒々としていてとても元気な人だったと思う。
親父とはまた違うおもしろい話を知っていて聞いていて楽しかったのを憶えている。
”大臣さん””大臣さん”とよくないついて、あとを追っかけまわしていた。
外見は変わってしまったけれど中身は変わってなさそうで嬉しい思いでいっぱいになった。
俺が少し幸せな気分に浸っていると彼は皺の入った顔で微笑み、簡単に自己紹介を終わらせると深々と頭を垂れた。
「あ、あのっ」
「わしはガラフと言う。何分記憶をなくしていてな、それ以外のことがわからないので名前だけで許してもらえるかのぅ」
いきなりのことに対応しきれない俺に目もくれず、ひとりすんなり自己紹介を終えたガラフ。
こんなにあっさり済ませるなんて、さすに年の功だと言うべきだろうか。
なんか初めてガラフを尊敬した気がする・・・。
「オ・・いや、私はファリス・シュルヴィッツです」
あっファリスにも先越された。
なんか俺ひとりで焦ってかっこ悪いったらありゃしねぇ。
「バッツ・・・と言います。あてのない旅を続けてるただの旅人です」
あえて名字は言わなかった。
俺の名前を聞くと、彼の動きは止まった。
思い出してしまったかなと内心どきどきしていたが一応笑顔を見せた。
引きつった顔になっていないことを祈りとおす。
大臣は少々首をひねっていたが、気分を取り直し俺たちを部屋へと案内してくれた。
手前の部屋をガラフが、真ん中の部屋をファリスが入った。
俺は1番置奥の部屋に案内された。


「今日はごゆるりとお休みくださいませ。夕餉の時にはお知らせいたしますので」
「はい。ありがとうございます」
ほっと安堵の胸をなでおろす。




よかった、バレていない。




本当だったらここで大っぴらにするべきなんだろうけど・・・・。
世界はこんな状況だし、俺自身あまり騒がれたくなかった。
それにファリスのことを考えるとまだ時機ではないと思うから。



心の中で何度も謝りながら彼が部屋を出るのを見届けようとすると、突然動きが停止してしまった。
そして初老とは思えないほどの軽やかなステップで翻すと俺の前まで来るとぴたっと止まる。
「あの、失礼ですがバッツ殿。ファミリーネームはなんと仰られるのでしょうか?」
胸に氷が走った気がした。
「えっそれは、その・・言わなければなりませんか」
口が思うように動いてくれない。
喘ぐようにだけどなんとか声を絞り出した。
「いえ!そんなに嫌がられるのでしたら結構ですよ。あなたのこと知っている気がしまして」
何故でしょうね。お会いしたことなんてないはずなのに。と彼は申し訳なさそうに微笑んでいる。
自分の言葉で俺が機嫌を悪くしたと思っているらしい。
心配そうに見つめて。
大臣は俺の前でもう一度深々とお辞儀をし、部屋を出ようとした。
ドアを開ける前に謝罪の言葉が飛んできた。















「本当に失礼しました。お気持ちを悪くさせ・・・・・・・・・」
「クラウザーです」

























「え?」

























「謝らなければならないのは私のほうです。”大臣さん”」
彼は瞳を大きく見開いてこちらを見た。
「隠していてすみませんでした。お久しぶりです。憶えていらっしゃるでしょうか・・・15年ほど前よく遊んでいただきました」
「む、息子殿でございますか?」
驚いてなのかだんだんと声が大きくなっていく。
皺だらけの手が俺の肩に触れた。
「ドルガン殿の・・・・」
「はい。バッツ・クラウザーです」
俺は笑っていた。
昔、彼に向けて見せていた無邪気な笑顔で・・・・・。
やはり俺には嘘を貫き通すなんて無理だったみたいだ。
正直に話そう。
すべてを。
ファリスのことを。
彼ならわかってくれる。
みんなにはまだ黙っておいてくれと頼めばきっと黙っていてくれる。
そういう人だと思うから。



俺は大きく深呼吸をすると彼の瞳から目を逸らさずに言った。















「名前のこと、黙っていて本当にすみません。わけがあるのです。聞いていただけますか?」




















「このタイクーンにも関わることなんです」

























「まだ他の人には内密にお願いします。そっとしてあげていて欲しいんです」






























「実は・・・・・・・・・・」








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