ああ、またこの感じ。
繰り返してばかりな気がする。
ついこの間懲りたばかりのはずなのに。
足の底から這い上がってくるようなこの不快感。



何かがおかしい。



もう嫌だと何度思っても襲ってくる。
ファリスは妙な感覚を抱きながら人気のない大回廊を走っていた。



静かすぎる。



いくらパーティーがひらかれているとしてもここに見張りまでいないなんて。
立ち止まると辺りを見回し、不意に窓の外を見た。
青いマント、茶色の髪の男が走って行った。

辛そうに歪めた顔が頭を掠める。




‥なんであんな所に?




駆けていく先に見えたものに今まで感じていた不快感の原因を知った。














あれは何だ。














ファリスは全速力で再び駆け出した。











マワル世界











どうにかなってしまいそう‥。



三本狼煙を見ながら溜め息を落とした肩に手を添えたのはライだった。
彼はこれを見るのは初めてだ。
ぎこちなくでも笑みをみせてくれるのがせめてもの救い。
彼は思っている以上に強い人。
彼の手を取れて本当に良かったと思う。





窓の向こうは青々とタイクーンの森が広がっている。
狼煙以外はいつもと変わらない景色だけど‥。
どうにも嫌な予感が消えないでいた。
バッツが向かったのだから最悪は起こらないと確信しているのに。
でも、この手の予感は昔からよく当たる。
それが嫌で仕方なかった。
添えられた手のおかげで肩の力は抜けたが溜め息は止められない。
ここでじっとしているしかない自分自身に呆れかえるばかりだ。
状況をある程度把握すると同時にバッツは愛剣を手に足早に出て行った。
ついてこなくていいと全身で言われた気がした。
尤もな正論を叩きつけられ言い返すことも出来なかった。

「私、こんなに自分の立場が煩わしいと思ったことないわ」

「レナ‥」

両手を握りしめる姿が痛々しい。
それども、ライはどこか安堵していた。
レナが現場へ行くと言い出したときは真っ先に止めるつもりだった。
それは彼の一言で杞憂に終わったが。







「俺が行こう」







そう言うと彼は出て行った。
レナとクルルが口を挟む前に念押しをして。

「この状況で自由に動けるのは俺くらいだしな。まかせとけ」


にかっと笑みを見せて、2人の反論を防いだ。
実に鮮やかで、流石共に旅をしていただけはある。
ああ言えば彼女らはここに留まるしかないのだから。










「仕方ないよ。ここはバッツに任せよう?」


レナ以上にむくれた表情を隠さずにいるクルルを呆れながらミドは宥めていた。

「みんなそう言うよね。前までそんなことなかったのに」

「クルル、今と3年前じゃ状況が違うでしょ」

「わかってるわよ。わかってるけど納得出来ないの!」

「今までとずっと変わらないなんて有り得ないって言ったよね?」

「でも変わらないものもあるって言ったわ」

「僕が今言いたいのはそこじゃなくて」

「わかってる!わかってるもん、揚げ足とったことくらい‥」



「クルル‥」



なんだかわからないけど悔しいのとクルルは小さな声で呟いた。
そして、ごめんねとミドの手を握り締めた。
握り返してくれる存在が嬉しかった。
どこか不安が付きまとっている。
漠然と悔しさが胸の奥からひしひしと響いてくる。
なにが嫌なのかがハッキリと形を作らない。
3年前と比べると随分と落ちてしまった力ではぼんやりとしているだけだ。
それが自分を焦らせていることは自覚している。




認められないだけで‥。




















バッツは城門近くに用意されていたチョコボにいつものように飛び乗った。
ボコより小さいなと頭の片隅でぼんやり考えながら勢い良く手綱を引き駆け出す。
流石に訓練されたチョコボは素直に言うことを聞いてくれる。
動物運の悪い自分にしたらこれはちょっと嬉しい。

「場所は王家直轄地ですので案内致します!」

「‥よろしく頼む」


先に待ちかまえていた兵士がひとり併走を始める。
断る気でいたが‥王様の領地と言われたら何も言えない。
置いていったら後でこっぴどく怒られるのが目に見えている。


レナは怒らせると本当に怖い。














ぐんぐんと近づいてくる狼煙を見上げて、バッツは疑問が大きくなっていた。







やっぱり静かだ。







他国の侵略ならとっくにこのあたりは戦場のはず。
先の大戦で大国に成長したタイクーンを攻めようなんてどこの馬鹿が考えるんだって話だけど。
万が一でもその気配はない。
少し近づけばわかると思ったんだが‥。
あの狼煙以外はいつもの風景なのだ。
それが余計に異質に感じてしまう。







何かが変だ。







が、その何かがわからない。







妙な感覚に捕らわれながら、先導を始めた兵士の後にぴったりついた。







「ここから領地になります」














声がかかった瞬間、ざわりと背中の産毛が総毛立ちした。





















入ってしまった。














何がなんて呑気なものじゃない。
3本狼煙を上げた兵士は大した奴だ。
額から汗が滲む。
手綱を握り締め前を睨めつける。
チョコボは当の昔に脚を止め、落ち着かない様子で忙しなく首を動かしている。
急に脚を止めたチョコボに焦りを見せているのは前を行っていた兵士だ。
勢い余って落っこちてしまったようだ。







彼は気づいていないのか‥。







ならまだ戻れる‥か?







久しぶりに感じるこの圧力に一瞬立つ位置を忘れそうだ。


頭を振り、息を吐く。
何度か手の感覚を確かめる。
ぎゅっと握り拳を作ると頷いた。







よし、いける。







「悪いが君はここでチョコボと待っていてくれないか」














バッツは一歩を踏み出した。








Photo by 「空色地図」






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