マワル世界











自分がこれほど馬鹿な男だとは思わなかった。






いつになく緩みきっている顔を戻すことが出来ないでいる。
すごく嬉しい。
隣に彼女がいる。
それだけで楽しい。
重症だ。
3日ぶりに会った彼女は相変わらずな様子だった。
いつも通りの元気なファリス。
何かあったんだろうとは思うが聞くのをやめた。
彼女らしくはないがなかったが気にしないことにした。
無理に聞き出すほど子どもじゃない。
余計な心配は無用なのだ。
ファリスは俺の体がもうほとんど治ってきているとわかると自分のことの様にすごく喜んでくれた。
それだけでいい。
十分だ。
ファリスといると話が尽きない。
この数年一緒にいるが会話に困ったことがなかった。



「バッツ」



彼女が俺を呼ぶ声が好きだ。

「ん?」

「これからどうするんだ?」

お互い勢いで出てきてしまった。
あと数刻もすれば昼時なんだかそれまでどうしょう。

「とりあえず飲み物恵んでもらって‥どうしようか?」

俺はファリスが居たらいいんだけど。
そんなこと言うと確実に右ストレートが飛んでくるから絶対言わない。
ファリスの真っ赤な顔はそれはそれは見ものだけどせっかく治りかけたこの体を酷くしたくないし。







「う〜ん・・・バッツ、これから暇?」

「暇を持て余してるけど?」

なんにもないよなぁ。
何かやることあったらジェニカさんに捕まることなんて失態は冒さない。

「じゃあさ軽いもんでも作ってもらって外に行くか?」

「えっ外って出れるのか!?」

「何言ってんだよ」

物凄く驚いた俺にファリスは怪訝な表情を見せる。

「俺、出ようとしたら泣きながら門番に止められたんだけど・・」

今にも泣き出しそうな門番の新米兵士を思い出したが楽しくもないので途中でやめた。


「・・・・・」


ファリスは呆れた顔をしいる。 その顔にはでかでかと馬鹿だろお前、と書いている。
そんな風に見なくてもいいじゃないか。
泣かれたら無理に出ようと思えないし。
例えそれががたいのいい男でも。
逆に怖いしさ。









「ま・・まぁ大丈夫だろ。行こうぜ」








見たいものがあるんだ。
そう言ってファリスは食堂へ歩き出した。





















































「あれ・・ここって」




目の前に広がった景色に思わず呟いた。

「結構覚えてるもんだろ?」

ファリスは得意気に笑った。
口ぶりから彼女も久しぶりのようだ。
広い草原。
数々の野花。
中々お目にかかれない薬草もある。
奥には小さな泉があって、その向こうには森が広がっている。
木々の隙間からは見覚えのある白亜の城が垣間見えた。



徐々に疑問が確信に変わっていく。








知ってる。








俺はここを知っている。








「バッツはここを覚えてるか?」








「ああ」








覚えているさ。




こんな近くあったなんて・・・。
来たのは一度きりだったけどよく覚えている。
俺には大事件だった。
着ていく服に悩むくらいに。
今思えばなんて馬鹿を言ったもんだ。
俺の言葉に普段無口な親父も大笑いをした。
でも俺は真剣だった。
その頃はもう親父とふたりっきりで旅をしていて、家族で遠出した記憶もなかった。
大人数で出かけるなんて初めての経験で物凄く緊張をしていた。
たくさんの人と豪華な飯。
いろんな人の笑い声をすごく覚えている。
その時仲良くなった女の子と遅くまで遊び倒した。
不思議な思い出。






「あ・・っ」

「どうした?」

いきなり声を上げたバッツにファリスは振り返った。
そうか…そういうことか。

「あれはやっぱりファリスだったんだな」

俺の言葉に彼女は軽く笑い始めた。

「なんだ。気づいてなかったのか?まあ正確にはファリスじゃなくてサリサだったけど」

「小さい頃親父に連れ回されていたから記憶が曖昧でさ…」

「なんだよそれ」

「ここで仲良く遊んだのは覚えてるんだけど・・・・それ以上はちょっと・・・」

頭をかいた俺にファリスは隣に腰をかけ言った。

「思い出したか?」

「うん」

なくなってしまったと思っていたものは意外に近くにあったんだ。
感動を押さえられない俺は何も言わず景色を眺めていた。
文句のひとつも言わないファリスの心遣いに感謝しながら親父のいた頃を思い出して少し喉の奥が熱くなった。









「ファリス・・・ありがとう」








泣きそうな顔をして昼までには帰って来てくれと言っていた門番の彼には悪いが・・・・。
もう少しだけここにいたい。








Photo by 「空色地図」






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