朝が久々に爽やかだった。


ここ数カ月睡眠を邪魔し続けていた鈍痛がほとんど治まっていた。

体が見違えるように軽い。

相変わらず傷は皮膚を引っ張っていたが痛みがないだけでこんなに違うなんて。
調子にのって勢いよく体を動かしてみる。
後悔するくらいの痛みは走ったが普通にしているだけだと痛くないようだ。



これでもうバレないかな。



隠すのが上手くなったようでこの傷を誰にも気づかれることはなかった。


ファリスは何も言わなくとも黙っていてくれている。


朝、起きた頃になると部屋にきて文句を言いながらきつめに包帯を巻いていく。
何処からくすねてきてるのか道具も処置も完璧だ。
ファリスは怒ってばかりだけどその時間が好きだった。
それなのに彼女は急に来なくなった。
そこまでしなくていいと言っても来てくれたのに。









何があったんだろう。









それどころかまともに話しもしていない。




傷を目にして彼女の辛そうな顔見ずに済むと思うと嬉しいが続いていた日課がなくなると寂しかった。














ファリスが顔を見せなくなって3日目の朝だった。






マワル世界





朝から城内は活気に溢れていた。

レナ王女の成婚の儀と戴冠式の2つの一大イベントを明日に控え、
城内の者と言わず国中の人間が喜びに満ちていた。
今も目の前を女官たちが忙しそうに足早に過ぎ去っていく。
外からは兵士たちの行進の声と楽士たちによる演奏が見事なハーモニーを奏でている。



そんな中バッツは途方にくれていた。


目覚めの良かった今日の自分に悪態をつく。
早々と食事を済ませ邪魔にならないように大回廊の脇の窓枠に腰を掛けている。





これからどうしよう。





無茶は出来ないとはいえ、ずっとこの状態というのも辛い。

バッツは溜め息をついた。

何か手伝おうものなら力いっぱい丁重に断られ、
夕方まで外に出ようと思えば止めてくれと門番に泣きそうな顔言われた。
俺が帰って来なくなるとでも思っているのだろうか。
こうして暇を弄ぶのも今日で3日目だった。





最初はよかったんだ。
城内もいろいろとみるところはあったし、普段見れないようなところまで覗けたから楽しめた。
あとはミドの後について一日中資料庫に入り浸っていたり。
ミドは部屋中に広がった資料の山に満面の笑みを浮かべていた。
本当に知識を吸収するのが大好きなんだあの少年は・・・。
改めて見るミドは幼かった顔立ちが随分大人になっていた。
3年という月日は思う以上に長いものだとその時実感した。
黙々と作業をするミドを眺めながらバッツは手近にあった資料をぼんやりめくった。




ミドにしたらかなり邪魔だったに違いない。







今日は一段とみんな忙しそうだ。


自分だけこうして暇でいいのだろうか。
さっきから女官たちが絶え間なく目の前を行き来している。
それでも俺の前で会釈をするのを忘れる人など誰一人いない。


恐るべき教育だ。


それをまとめているのがあの人だと思うとやはり顔は引きつった。
よく考えればあの人はレナの育ての親なんだ。
そう思うと妙に納得できる。
小さい頃、大好きだったがそれ以上に恐かった。
親父より恐い人だった。



それでもめげずに悪戯をしまくっていたが・・。



「あら、どうなさいました?」

「ばっ……ジェ、ジェニカさん」

心臓がドクドクと響いている。
まさか当の本人が現れるとは思わなかった。

「そんなに驚かなくてもよろしいでしょう」

色とりどりの服をたくさん抱えながら素晴らしき女官長は呆れたように言った。

「いや、いきなり現れたもんですから・・・」

「そんなところでぼーっとなさってるのが悪いんですよ」

全くこの人は気持ちいいくらいすっぱり言ってくれる。

「じゃあ、それ持つよ」

押し切る形で両手いっぱいの服を受け取った。

「あら、立派になられて・・・ドルガン様もお喜びでしょうね」

あんなに悪戯ばかりしていた子がとぽそりと言った一言を俺は聞き逃さなかった。

「ちゃんと俺も成長してます」

「まだ実感がわかないですよ。あんなに小さかった子があっという間にねぇ・・」

「もう20年くらい前ですよ?」

「20年ですか・・・・そう聞くと長いように感じますが実際あっという間ですよ」

「そういうもんですか?」

「そういうものです。レナ様もついこの間お生まれになったのに
もうこんな晴れの舞台で・・嬉しいけれど淋しいですね」

ジェニカは潤んだ目を袖の裾で拭った。

「・・・これ、どこに持って行きますか?」

色とりどりの服を軽く上げて言う。

「ああ、そうなんです。これからちょっと戦いにいくのですが暇ならあなたも来さいな。
あなたが味方なら少しはマシでしょうから」

ジェニカは溜め息をついて言った。
・・・なんともいえない予想が出来た。


「あの‥俺、男なんですけど」

「そういうことを気にする方とは聞いてませんが?別に着替えるわけではないので大丈夫ですよ」

相変わらずの肝っ玉ぶりで笑いしかでてこなかった。
予想は確実なもののようだが果たして俺なんかの言うことを聞くだろうか・・。

まぁ、明日は特別な日なわけだしもしかしたら覚悟してるのかもしれない。


ものすごく機嫌が悪くなるだろうが、そこは少し俺が犠牲になればなんとかなると思う。



それが俺のレナへのお祝いってことにして我慢すればいいか。





きっとレナもわかってくれるはずだ。




「一緒にきていただけます?」

「よろこんで」

にっこり微笑んだまだまだ壮齢の女官長に負けないくらい笑って答えた。
どうせ嫌だと言っても連れて行かれるのは目に見えている。
どうして俺の周りにはこんなに・・・・。














「失礼します。」



他の扉とは少し豪華な装飾な扉に軽くノックをしてジェニカは開けた。
案の定その向こうには不機嫌を全面に出した彼女がいた。

「なんでお前がいるんだよ!」

「お手伝いでゴザイマス。サリサ様」

とりあえず煽れるだけ煽っておこう。

「お前もう一回死ね」

「一回も死んだ覚えないんですけど」









ああなんて・・・。














なんて俺の周りは強い女ばかりなんだろう。








Photo by 「NOION」






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