「ボコ〜!!!」


「クェェ〜〜っっ」





バッツは黄色い姿を見つけると叫びながら抱きつきにいった。
その声を聞き、驚くように振り向いたボコも歓喜の声を上げて駆け出した。


「会いたかったぞ。ボコ〜っ」

「クエクェっ」


ぎゅ〜っと必死に抱きしめあう2人(?)をみて、ファリスは吹き出した。
ファリスの隣にいたココも面白そうに鳴いている。
その騒ぎを聞きつけた海賊たちがアジトの奥からぞろぞろと顔を出してきた。


「おっおかしらじゃないっすかぁ!!」

「よっ久しぶりだな」

驚きの声を上げた彼らにファリスはにっと笑って答えた。






マワル世界





がやがやと洞窟が騒がしい。
普段では考えられないくらいの賑やかさだ。
海賊たちはありえないほどの酒樽をあけて大騒ぎしていた。
おかげでアジトの中はどこもかしこも酒のにおいでいっぱいだ。
それでもなお、彼らは奥から酒樽や料理などを次々と運び出している。


おかしらがいる。


それがとてつもなく彼らにとって素晴らしいものだった。




「おかしらぁ!おかしらの席はこっちですよ」


部屋の端にある椅子に腰掛けようとしていたファリスに準備をしていたひとりが呼びかけた。
しばらく来なくって忘れたんスかぁ〜?とからかいながら指す。
そいつが指しているのは代々のおかしらが座る場所だ。


「ばっか!!何言ってんだよ!そこはもうオレの席じゃねぇだろっ」

「えー・・ここっスよぉ」

「だーかーらーっ違うだろ!つーか、おかしらもやめろ!!もうおかしらじゃないんだから」

「おかしらはおかしらっス」


怒鳴ったファリスに対して彼は真面目な顔をして答えた。
うんうん、と自分だけ納得している姿を見ながら、ファリスは拳を震わせる。


「仕方ねぇですよ。おかしらはおかしらなんですから」


不意に後ろからかけられた言葉に驚きつつも振り返ると長身の中年の男が立っていた。
“元”副船長の男。
自分が旅に出て留守の間、アジトをまとめていた男だ。

知りすぎている顔に笑みも零れたが、それ以上に怒りが込上げてくる。


「ザルバ!!お前も何とか言ったらどうだ!今はお前がおかしらなのに・・」

「いえ、副船長です」

「・・・なぁ、オレお前がおかしらだって言ったよな?」

「言いましたねぇ」


男は頭高く結った髪を弄りながらそっぽを向いてしみじみ呟いた。


「だったら・・っ」

「俺たちのおかしらは俺たちで決める」


そう言われたら何も口出しできない。
ファリスは押し黙った。
もう、自分は関係ないのだと改めて思い知らされた気がする。
黙ったまま彼女は俯いた。


一拍おいて豪快な笑い声が漏れた。
ザルバはにやりと口角を上げた。


「だから俺はいつまででも副船長で、あなたはいつまででもおかしらなんスよ」

「てっめぇ・・・!!!」


やられた。


そう思った。



そうだよ、こんな奴らなんだよ。




こんな奴らが好きだから・・・だからおかしらにもなった。


ファリスは息を吐くと、大声で喚いた。


「ああ、もういいよ。どこでも座ってやるよ。・・ったく」

「そうでないと」


楽しそうに副船長は笑みを飛ばした。
それを見て、ファリスも自然に笑い声を上げていた。
























「おぉっ結構でかいじゃないか!」

「クェェっ!!」


バッツはボコたちの住まいに来ていた。
海賊たちが身重のココのために奥の一室を分け与えてくれたようだ。
家族が暮らすには十分な広さだった。
その部屋にボコとココに導かれてやってくると二羽の小さなチョコボが顔を出した。
一、二回り小さなチョコボたちは父と母の姿を見ると喜んで鳴いた。
が、しかし見知らぬ人間がいたためかちっとも寄ってこない。
バッツは笑みを漏らした。


「可愛いーなぁ!男か?それとも女の子?」

「クエクェ」

「両方とも男かぁ〜」


少し離れたところにしゃがみこむと彼は手を差し伸べた。
なるべく同じ目線に合わせて小さなチョコボを見つめる。
しばらくすると自分たちの両親がそばにいるからもあるが、おずおずと2匹は前に進み始めた。
そして、そっと嘴がバッツの指に触れる。
バッツは少年のように笑うと親友の子どもたちを抱き寄せた。


















「ここにいたのか」

声のほうを向くと、入り口の空洞からファリスが顔を覗かせていた。


「ファリス」

「いつまで経っても来ないからどうしたのかと思った」


とっくに宴会は始まってるぞ、と言いながらボコの隣まで歩み寄った。
そして喉のあたりをさすってやるとボコは気持ちよさ気に鳴く。
鳴き声に満足するとファリスは腰を下ろしてグラスとボトルを地面に置いた。
その様子を見つめていたバッツに彼女は目で飲むだろ?と問いかけてから赤々とした液体をグラスに注ぎ込む。


「いいのか?」

「何が?」

「だから宴会。せっかくお前が帰ってきてみんな喜んでいるのに」

「いいんだよ、あいつらはただ騒ぐ理由が欲しいだけなの。それに・・もうおかしらは交代したしな」

「・・・え?」


ファリスの言葉にバッツは驚きを隠せなかった。
その言葉をそのまま理解するとおかしらをやめたということだ。
あっさりとした口ぶりからするとやめたのは随分前なんだろう。




もしかすると・・いや、もしかしなくても俺のせいかもしれない。




バッツはぐっと唇を噛み締めた。
鉄くさい味が口の中いっぱいに広がった。





「バッツ?」

「ああ、悪い」


そんなバッツの心情に気づかないか、ファリスは口元を緩ませながらグラスを差し出している。
一呼吸遅れて彼はグラスを受け取った。
心臓が嫌な音を立てていた。
迷宮に迷い込んでしまったような錯覚に陥る。
ファリスは相変わらず笑顔でこちらに話しかけてきている。


その笑顔に答えようとしながらバッツは思った。



自分は本当にここにいていいのか、と・・・。







「じゃあ、乾杯な」

「何に?」

「うーーん・・・あ、ボコとの再会を祝して」

「おお!そうだな、親友との再会に・・」




「「乾杯」」





ガツと醜い音を鳴らして二人はグラスを口に運んだ。








Photo by 「MIYUKI PHOTO」






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