あの日、あの時言われた言葉は今も忘れない。

長いときだった。

目を覚ましたときには一番に奴の瞳に映ってやろうとその場から離れなかった。
正直、また無くすかもしれないと思った。
目を開けるまで心配でいても立っていられなかった。


目覚めてくれさえすれば別にステラのままでもいいと思っていた。
例えまたすべてを忘れてしまっていたとしても初めからやり直せると・・・。
生きていてくれさえすれば。
微笑んでくれさえすれば、それだけでよかった。




・・だから、あの言葉は嬉しかった。




「お前が・・・好きだ」




とても嬉しかった。
言葉が出ないくらいに・・とても。


「やっと言えた」

と恥ずかしそうに笑ったバッツを見て、オレは涙が止まらなかった。
今まで溜め込んできたものがものすごいスピードで押し寄せてくる。
あの時は涙で言葉が詰まってしまったけど・・。


オレも・・・。






オレもやっとお前に言える。













そう思うと余計に涙が溢れた。






マワル世界





首に吊るした指輪を握るとファリスは起き上がった。
自分の指には入らない小さな指輪。
あの時バッツから貰った大切な指輪だ。
彼の母親の形見を譲り受けるのは気が引けたが持っていてほしいと言われたので素直に受け取った。
この指輪の裏には小さな字で“D to Stellar”と刻まれている。
記憶を失った彼が唯一持っていた大事な手がかり。
なぜバッツがステラと名乗っていたのかがこれを貰ってわかった。
あの時の彼は彼なりに懸命に記憶のかけらにしがみついていたということだ。
そのことを考えて思い出してみると少し可笑しくなった。


ファリスは軽く身支度を整えると部屋を出た。
隣のドアをノックして入った。


「ああ、ファリス。おはよう」


バッツがベッドの上でにこりと笑う。


「まだ一人じゃ無理だろ。いつも言っているじゃないか。包帯巻くくらい手伝うって・・」


溜め息をつきながら彼のところに駆け寄る。
傷だらけの体に手を伸ばしながらいつまで経っても頼ってこない男を睨んだ。


「いや、そろそろ自分でやらないと、さ」


「それは毎日聞いてる」


まいったな、と苦笑いを見せたバッツに妙な苛立ちを感じた。
昔からこいつはこうだった。
人にはもっと人を頼ったほうがいいとか甘えろとかいうくせに自分は絶対そんなことをしない。
確かにレナやクルルには見せられないとしてもオレにくらいはと思うことが何度もあった。
こっちは何回も助けてもらっているのに返すことができないのが嫌になる。
貸しを作るみたいで嫌だと言えばいつか返してもらう、とか何とか言うんだこいつは。
オレからいっても頼ろうともしない。
頼るとかに関しては自分自身にも言えることだからあんまり強く言えないけど・・。
でも少しくらいはって・・・・思う。
ようするにオレもこいつも不器用なんだろう。


はぁともう何回目かもわからない溜め息をはくと、きつく包帯を締めて留めた。


「・・いつもよりきつくないか?」


「お前は暴れるからきついくらいがいいんだよ」


バッツの背中を気持ちいい音がするくらい叩いてファリスはベッドを離れた。
手の届かないところに痛みの震源地ができたバッツはベッドに崩れ落ちて痛みと戦う。
声にならない悲鳴が痛さを物語っている。
その姿を見てファリスは少し気分が晴れた。




「なぁ・・俺なんかした?」


「イロイロ」


そう、いろいろだ。

頼ってこないし。

なんか一線引いた感じで接してくるときあるし。

部屋だって勝手に別々にとるし。


好きだって言っておいてそれ以来何も言わないし。





・・・・。








そうだ・・。








何もないんだ。











あれ以来何も言ってこないんだ。














「何かあった?」



難しい顔をして考え込んでいたファリスに彼は顔を寄せた。
深い青が心配そうに彼女を見上げる。



「いや・・寝起きがよくなくて、機嫌が悪かっただけだ」


ごめん、と呟くファリスにバッツは口元を緩ませて首を振る。


「それならいいんだ」


そう言うと彼は身支度を整え始めた。
ぎこちない動作で服を羽織って立ち上がる。
無造作に荷物を詰め込むと、真っ直ぐにファリスを見据えた。
ぱっと見ても怪我人だとは誰も気づかないだろう。
本当に隠すのが上手い。




「さぁ、行こう」


「ああ」





早い朝食をとると2人はバルをあとにした。
チョコボに揺られながらファリスは思う。


あの日。



あの時・・。




自分がちゃんと答えを返していたら“今”は変わっていたのか、と・・。










ちゃんと好きだと伝えていれば。
















“今”バッツが遠いと感じずにいられたのだろうか・・・・。








Photo by 「叶屋」






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