「「はぁ!?いないっ?」」





ふたりは声を荒げた。
優美なカップが割れる勢いでテーブルに置かれる。
目の前にいる大臣たちは冷や汗を流しながらそれを見守っていた。


「どういうことですか?クルルがバルにいないなんて・・・」






マワル世界





「つ・・つかれた・・・・」


バッツは深々と椅子に腰を下ろした。
黄金色に輝く太陽が憎らしく思える。

「大丈夫か?バッツ」

「ん・・ああ、平気。まだ動けるさ。すぐここを立たないといけないし」

寄ってきたファリスに彼はなるべく笑顔で答えた。
バッツは動けるようになってまだいくらも経っていない。
辛いはずなのに、一見平気のように見せる姿が痛々しい。

「バッツ、今日はここで休もう」

「何を言ってるんだ。先を急ぐんだろ?こんなとこで・・・」

切り出したファリスにバッツは首を横に振った。
弱った体を無理に動かし始める。

「駄目だ!!今日はここで泊まる!」

力強く肩を捕まれ鋭い眼光で睨むファリスにバッツはため息をついた。
こうなった彼女は何を言っても譲らない。
それに今は自分のことでこうなっている。
確かに多少無理をすれば何とかなるが後々どうなるかわからない。
彼女の判断はきっと正しいのだろう。



「・・・わかった。今日は泊まる。でも早朝出発な?」

「うん」



いまひとつ彼女は納得してない顔をしたが自分の意見を押し通したのでうんと言わざるを得ないようだ。
さすがにクルルのいないバルでのんびり静養しているほど俺たちには時間はない。
何のためにジャコールを出てきたのかがわからなくなる。
それに早くタイクーンへ行かないと・・・。
バッツは少し焦っていた。


















ファリスはちらりとバッツを見た。
疲れきっている・・それが彼を見た一番の感想だった。
まだ旅は無理だったんじゃないだろうか。

ファリスはバッツに寄り添うようにしゃがみこんだ。

確かに先を急がなくてはいけない。
それはわかっている。
でも彼に無理をさせてまで行く気にはどうしてもならなかった。

なんてひどい姉なんだろうと改めて思う。

なんて自分勝手なんだろうと。




「大丈夫だよ。きっとレナの結婚式には間にあうって」




バッツはにっこり笑ってファリスの手を握った。

ファリスは泣きそうになった。
辛いはずなのに人の微かな気持ちの流れをよんでくれる。
嬉しくなって胸が熱くなった。

「そうだな」

そう一言返すのがやっとだった。















バルについたのは昼間を少し過ぎた頃。
すぐに城に向かったのだが会いたい人はもうここにはいなかった。
城を預かった大臣たちは口をそろえてこう言った。

「タイクーンのレナ姫が女王に即位されると同時にご成婚とのことでそのお祝いに向かわれた」と・・・。

口を開いたまま動かない2人に大臣たちは冷や汗を流した。
あちらとしたら知っていて当然と思っていたのだから。


気を取り直したバッツとファリスは詳しい時期と内容を聞くと礼をいい、早々と城を後にした。



















「それにしてもレナが結婚かぁ・・」

バッツがぽつりと言葉を漏らした。
身近な人が結婚などしたことがなかったので不思議に感じがする。

「どんな奴なんだろう?」

その言葉に反応したファリスは声を低くして呻く様に呟いた。
目が明らかに据わっている。

「お、落ち着け!レナがしょうもない相手と結婚するわけないだろうっっ」

「・・・・それもそうだな」

うんうん、と納得している彼女を見ながらバッツは安堵の息をつく。

妹のことになると毎度のことながら収拾がつかなくなるので怖いのだ。

大事な妹がどこぞの馬の骨と結婚すると聞かされれば、何も知らない彼女が考え込むのも仕方がない。

「ん? 相手は小国の王子みたいだぞ」

バッツはテーブルの横にあった情報紙を手に取ると記事を指さした。
そこにはタイクーンの姫君ご成婚と大きな文字で書かれている。


「本当だ。へー・・・評判はいいらしいな」

記事には王子のことがたくさん書かれていたがそこに浮いた要素はなく、ファリスは安心した。

「やっぱり見合い?」

「よくわかんないけど・・王族だし、そうなんじゃないのか?」

2人は勝手な王族像を想像しながら頭をひねった。
この辺の村々で行われている見合いとはまったく違うんだろうな、と思いながらその光景を思い描くことはできなった。

「見合いでもさ、レナのことだからちゃんと好きになった奴となんだろうな」

「バッツもそう思うか?」

「ああ、レナは俺たちよりしっかりしてるよ」

軽く笑いながらバッツは嬉しそうに口を開く。
親しい仲間の朗報に顔を綻ばせている。
そんな彼を見て、ファリスもつられて微笑んだ。

























笑ってから彼女は、はたと気がついた。



嬉しそうに微笑む彼の横顔を見つめながら思う。


























自分たちはどうなんだろうと・・・。








Photo by 「MIYUKI PHOTO」




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