ああ眠い。
体がすごく重い。
俺は何かしていたんだろうか。
とても疲れた。
・・・このまま寝てしまってもいいんじゃないか。
ちょっと待ってくれよ。
?
そんなとこで寝られちゃ困るんだ。
悪いが起きてくれ・・いか。
・・・切な人が泣い・・・・だよ。
よく聞こえない。
誰が泣いている?
た・・な人だよ。
よく・・・くんだ。
認・・いけど。
聞こえない。
誰だ?
あんたは誰だ?
俺は・・・・ただ。
大丈夫、笑・・・泣き止むから。
「カケラ」
「・・ステラ」
無理矢理絞り出した声は奴の名前だけだった。
生きてた。
全身の力が抜けそうだ。
嘘だろう・・?
さっきまで指一本動かなかったのに今では微笑む余裕さえ見せている。
「どうしたシャドまで、情けない顔・・・」
「お前が悪いんだろうが!!」
あまりにものん気に言いのけた男に混乱が爆発した。
相手は重傷だというのに手加減もせずに怒鳴り散らす。
次々に出てくる暴言にステラはよく続くなと半分感心しながら目を見開いた。
怒りは湧いてこない。
そんなことあるわけなかった。
こいつなりの喜びの表現なのだから・・・。
ドスっと草をわけて歩く音がした。
きたか・・っ
少しでも動くと激痛が走った。
でも、我慢できないことはない。
腰に帯びている剣を引き抜くと力いっぱい投げた。
「避けろ!」
勢いよく飛んできた剣をシャドは慌てて避ける。
上手くかわしきれず大事なコートが傷物になってしまった。
「おぉいっ!!」
文句を言おうと立ち上がる彼の後ろから巨大な呻き声が上がる。
ステラの剣が魔物の右前足に深々と突き刺さっていた。
こんなに近づいていたのか・・。
驚きながらも続けて攻撃に入ろうとしたシャドは異変に気づき足を止めた。
一拍ほどおいてから剣が光り、爆発を起こしたのだ。
赤黒い炎に恐怖を覚え、その場から一歩も動けなかった。
あれは魔法剣だった・・のか。
見たことない魔法だけど。
すごく威力のある。
そんなに近づいていないのに肌が焼けるように熱い。
「気をつけろっまだ死んでない!!!」
後方から飛んできた声が届いたときにはすでに目の前に奴はいた。
毛の肉の焼けた嫌な臭いが鼻にこびりつく。
まだ衰えない殺気に身を震えさせた。
「くっ・・」
間一髪のところで動いた体を傾け、角をかわす。
体勢を整えるために倒れた勢いのまま転がり、少し離れたところで立ち上がった。
剣を構えながら叫ぶ。
「こいつ不死身か!?」
「シャド!時間稼ぎしててくれ!!」
「な・・・っ?!」
あまりにも無謀すぎる言葉にシャドは喉を詰まらせた。
俺の実力を知っているだろうが!
避けるだけで精一杯なのが見えないのかよ!!
抗議を含めてギッとステラを睨んだ。
奴は俺のことを真っ直ぐ見つめて清々しく笑った。
あー・・そういことね。
それで無茶なこと言い始めたのか。
余裕な顔しやがって、こっちはいっぱいいっぱいだってのに・・・。
「・・ったく、絶対倒せよ!死ぬのはごめんだからな」
シャドの声が聞こえる。
わかってる、俺だってごめんだ。
やっとわかりそうなのに。
全てが繋がりそうなのに死んでたまるか!
あの剣がそんなにすごいものだとは思ってなかった。
シャドは持てないって言っていたけどそれは人それぞれだと思っていたから。
今までこんなことなかったし。
全部焼き尽くしてしまう赤黒い炎。
ファイアとかじゃなさそうだ。
それよりもずっと強い。
名前はわからない。
でも、知ってる。
そうだ。
俺はこれを知ってる。
「・・ステ・・・ラ?」
細々と小さな声が聞こえた。
「ファリス!よかった、正気に戻ったか」
「ごめん・・・オレ」
「気にするな。それよりアレにさ、隙作って欲しいんだ」
「・・・・え?」
ファリスは驚いた顔をしている。
それもそうだろう。
正気に戻った次の瞬間に戦えって言っているんだから。
俺は笑っていた。
不思議と恐怖は感じなかった。
普通なら死ぬ気で行かなきゃ勝てそうもない敵なのに・・。
こんなにも傷だらけなのに、怖くなかった。
負ける気がしない。
必ず勝てるという確信があった。
「わかった、何をするかわからないけど。必ず決めろよ」
ステラの表情に何かを感じ取ったファリスは剣を手に取り、走り出した。
1人戦っていたシャドがファリスに気づくと己のほうに魔物を誘き寄せる。
背中に彼女の一撃が決まった。
思わず耳を塞いでしまいそうになる咆哮が響く。
隣に陣取ったファリスにシャドは声が届くように叫んだ。
「あいつ何するつもりだ?」
「さぁ?・・でも勝てる。バッツが勝つって確信した時と同じ顔してる」
「なんだ、ファリスも理屈じゃないのか」
「シャドもだろう」
剣を構えなおす。
互いに笑みを見せると攻撃を開始した。
ステラは自分の掌を見つめていた。
握り拳を作ると立ち上がる。
足に上手く力が入らないがなんとか立てた。
これが最後の一発だろう。
でも大丈夫、勝てる。
腕をそっと前に出す。
言葉が自然に紡がれる。
「滅びゆく・・・肉体に暗黒神の名を刻め、始源の炎蘇らん」
「2人とも、下がれ!!」
手の中に熱が生まれるのを感じた。
瞳には魔物(やつ)しか映っていない。
あとはたった一言を言うだけ。
そうだよ、名前・・これだった。
「フレア!」
一瞬にして辺りは赤い光に包まれる。
言葉に言い表せない絶叫が大気中に散らばった。
赤い閃光を見て、ファリスは2年前の光景が重なった。
鼓動が早くなる。
嫌な予感がして堪らない。
熱風が吹き荒れる中、彼女は駆け出した。
いやだっ
同じことを繰り替えるのはもういやだ。
視界が徐々にハッキリしてくる。
地面に横たわる影を見つけた。
駆け寄って傷だらけの体を抱き上げ胸に耳を当てる。
微かに、本当に微弱に動く鼓動にほっと息をついた。
でも、まだだ。
「シャド!手伝ってくれ!!」
鶯色の髪の剣士を呼ぶとファリスはぎゅっと意識のない彼を抱きしめる。
繰り返させない。
絶対。
だから・・
だから死なないで。
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