いきなりのことで頭はパンク寸前だ。
何が起こったなんて初めはわからなかった。
気づけばオレは抱きかかえられながら横たわっていた。
何かが上に乗っかっているみたいだ。
生暖かいぬくもりと重みを感じる。
鈍い痛みが体中を駆け巡った。
ひどく頭が痛い。
視界はぼやけてほとんど見えない。
霞がかる瞳に映っていたのは朱。
目の前には鮮やかな赤が広がっていた。
独特の臭いが鼻につく。
噎せ返る異臭に嘔吐感を覚えた。
妙に胸がざわつく。
嫌な感じが、した。
焦ったオレは急いで体を起こす。
ズルリ、と力なく崩れ落ちたのは生暖かい”何か”。
「・・あ・・・あぁ・・・・っ」
声が上手く出てくれなかった。
息をするのを忘れて喉を詰まらせる。
震える指はゆっくりと長い栗毛に触れた。
思いのほかやわらかい髪が掌からサラサラと滑り落ちる。
行き場のない思いと手は彼の血の気のない頬を撫でるしかなかった。
「あ・・ッ・・・ツ」
またか。
またなのか。
オレはまたおいていかれるのか。
何も音は聞こえない。
そこにはオレとこいつしかいなくて・・。
あのときを再現していた。
手を伸ばして抱きしめる。
声をかけても閉ざされたままの唇。
だんだんと冷たくなっていく体。
なにもかも全てが同じで・・・。
知らないうちに涙が溢れていた。
流れ出る雫は頬を伝い彼のもとへ。
自分の体も抱きしめる人も真紅に染まっている。
体全体で抑えても噴出す赤に己を見失った。
「や・・だ。やっ、やあぁぁーーっっ」
ふ、と2人に覆いかぶさるように影ができた。
大きな、大きな黒い影。
「・・・?」
ファリスはのろのろと顔を上げる。
目に入ったものに固まった。
だってそれはここにはいないはずのものだから。
深い青緑の肌。
血を思わせる毒々しいほどの赤い毛。
人の何倍以上もある巨体。
鋭くやたらとでかい2本の角が以前見たときよりも大きく感じた。
何故ここにいるのだろう。
いるわけないじゃないか。
こいつの弱いのならまだわかる。
この辺りでは見かけたことないけど、納得しようと思えばできる。
でもこいつは・・・。
いるわけない。
この世界
(
・・・・
)
に存在することなんてありえない。
だって、だって最後に見たのは1年以上前のこと。
あのとき、あの戦い。
あの、嫌な思い出しかない次元の果ての場所。
驚きを隠せないファリスは震える唇から言葉を紡ぎ出した。
「キング・・ヘビーモス・・・・」
「カケラ」
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