目覚めたときはいつも同じで汗がびっしょりだ。

消えてしまって忘れた恐怖は体だけが憶えている。

弾む息を吐きながら考える。





俺は誰かを亡くしたのだろうか?





大事な人を目の前で失ったのか・・?





わからない。







夢の人の涙さえも止めることができない無力な自分。



これは罰なのだろうか。









その場から動けない自分に吐き気を覚えた。










「カケラ」





「ファーリス!」

まだ夜も明けていないというのに大きな声で呼び止められた。
聞こえたほうを見ると明るいオレンジの金髪をもつ踊り子の少女が立っている。

「レダ?どうしたんだこんな時間に?」
驚く三人をよそにレダはにこにこと笑っている。
「私たち今帰ってきたところなの。みんなは今からお仕事?」
そういって微笑む姿は野に咲く小花なようだ。
レダはいつも可愛い。
表情はコロコロ変わるし、止まらない口の持ち主だ。
瞳も零れそうなくらい大きくて輝いている。
その姿形をいい、ときどきクルルを思い出させてくれる妹のような可愛い友人。





「今帰ってきたってのは、どういうことだ?」
重たい雰囲気で話しかけたのはシャドだ。
真剣なのはオレもステラも同じ。
それほど彼女の言葉に驚かされたのだ。
なぜなら、最近いきなり現れたという謎の魔物。
短期間だというのにすでに殺された人は数知れず、生き残った目撃者は見たことのない魔物だそうだ。
その情報が流れてから数人の賞金稼ぎたちが挑みに行ったが、その後そいつらの姿を見た奴を見た奴はいない。
決して弱い奴らではなかった。
ということはそれほどの強さということだ。
そんな世の中に深夜馬車を走らせ、この一座は帰ってきたというのだ。

それも女たちだけで。

「言葉のとおりよ」
「今、危険なのはお前たち一座だって知っているだろう?」
「そりゃあ、もちろん知ってるわよ?でも、みんな家に帰りたいっていうから帰ってきたの」
その簡単に説明できる理由にどっと力が抜けた。
答えたレダは不思議そうに3人を見つめている。



「そんな理由でのん気に帰ってきたのかお前らは!!なぜ夜明けまで待たなかった!」



あ、シャドがキレた。
こいつはいつもふざけた事をしているがこういう事になると本気で怒る。
なんでも自分の命を大事にない奴はバカなんだそうだ。
確かにその考えは一理ある。
しかしこの怒り様・・・。
昔なにかあったのか?
商家だとは言っていたのを聞いたことあるがそれ以上は聞いていない。
というより聞かない。
きっとそれは関係ないことだから。



「帰るわよ。うちは民主主義だもの」
シャドの怒気はレダには通じず、彼女はあっさりと言いのけた。
「み・・民主主義だぁ〜!?」
さすがにそれにはオレも驚いた。

自分の命がかかわることなのに多数決・・・。



恐るべし、女一座。




「もし襲われたらどうするつもりだ!」
「襲われなかったじゃない」
「だから、もしって!!」
「・・大丈夫よ。次の営業は一月先だし」
「どういうことだ?」
「だってその頃にはもう倒しちゃってるでしょ?」
レダは得意気に笑みを見せた。

「・・・っ!!」

「お前の負けだよ。シャド」
言葉に詰まった若作りの剣士に呆れてステラは呟いた。
オレたちの中で一番口達者な男は十近く離れている少女に負けたのだ。
いつも遊ばれているオレとステラからしてみれば少し気持ちがよかった。



「・・・何、にやにやしてるんだよ」

シャドがこちらをものすごい形相で睨みつけている。
ヤバイ・・顔に出していたのか。
慌てて口元を手のひらで隠した。



「気のせいだよ、気のせい」



オレ、嘘つけないんだよなぁ・・。









「ファリス、ちょっと!」

誤魔化そうにも上手く口の回らないオレを助けてくれたのはレダだ。
どこにそんな力があるのかわからないが頭2つ分くらいでかいオレを引くずって行く。
ぐいぐいと引っ張って歩いていたレダは突然ピタリと止まる。
手を離してこちらを向いた。
ここまでくればあの2人に聞かれずに済むと思ったのか。
あいつらが小人のように小さく見える。
確かにこんなに離れていれば、普通の人間より耳のいい2人にも聞こえないはずだ。


でもなぜ?

聞かれちゃマズイことでもあるのか・・?



するとレダはオレの手を包み込んで優しく握った。
「気をつけてね。体に傷なんてつけちゃダメよ」
「へ?」
「へ?じゃないでしょ!んもうっ言わなきゃ気づかないんだから!!ファリスも女の子なんだからね」
まるで小さな子を叱りつけるみたいに言われた言葉を頭の中で繰り返した。
「レダ、それだけか?」
「そうよ」



戦う前に調子が狂ってしまうかもしれない。
レダに手を預けたままファリスはしゃがみ込む。
はあぁぁ、と長い息を吐いた。


それだけか?

それだけのためにここまで離れたのか!?


「どうかしたの?」
不思議そうにレダはファリスト同じ目線になるまで屈んだ。
「おかしな子だな。ステラが好きなんだろ?まったく、敵に塩を送っても何もいいことないぞ?」
「いいことあるのよ。あなたの笑顔が手に入るわ。私、ステラのこと好きだけどファリスも好きだもん。
それにその辺は正々堂々勝負したほうがお互いすっきりしていいじゃない」
呆れたオレはつい本音を出した。
それをもろともせずこの少女は子どものようなこと言う。
耐え切れずファリスは吹き出した。
「オレも好きだよ、レダ」
じゃあ、私たち両想いねと可愛らしく彼女は微笑んだ。




この子に女とバレたのはいつだったか。
意外にあっさりと知られてしまったことを憶えている。
そのときのレダの第一声ときたら・・・。


「どーりで美人だと思ったわ」だ。


その言葉に面を食らったあのときのオレの顔ときたら・・。
レダ以外に見られなくて本当によかった。
女とわかるとこの子はよく部屋に遊びにくるようになった。
2人で話すことは毎回同じ、あいつのことだ。
オレは旅をしていた頃のことをレダはステラのことをたくさん話してくれた。
思えばこんな風に女の子と話をするなんて初めての経験だ。
レナとクルルはよくそんなことで盛り上がっていたけど、まざりたいとは思わなかった。
それが今こうやっているのだから・・・人間どう変わるかわかったものじゃない。



















「お前、最近レダと仲いいな」
あのあとレダと別れ、オレたちはのんびりと魔物の目撃情報の多い場所まで進んでいた。
山道を歩いている中、いきなりシャドが口を開く。
「まぁな」
「ちょぉっと前までステラ、ステラ〜って追っかけてたのにな」
レダの真似をしながらシャドは高い声を出す。
その姿があまりにも似ていたのでオレとステラは破顔した。


「あいつはまだ知らないんだ。ファリスが女だって・・・だから」
「なるほど、な」
ステラが珍しく自分から話していることに軽く驚嘆しながらも努めて平然と返事を返す。
まぁ、シャドにしたら面白くないのだろう。
ちょっと前まで追いかけていた奴より新しい奴に乗りかえたように見えてしまう。
「別にバレてもいいのに」
「いや、シャドはあんまり女の賞金稼ぎにはいい思い出ないみたいで・・」
「それは難しいな」
「だろ?だからファリスが今のままで楽なら無理に言う必要もない。一緒にいて楽しければ男でも女でも俺はいいと思う」


ステラの言葉に複雑な感情を抱かずにはいられなかったが、
この男なりにフォローをしたつもりなんだと無理矢理決めつけ納得した。




男でも女でも、か・・・。



少しは近づけたと思っていたんだけどな。

どうやらまだまだらしい。




黙々と隣を歩く男を横目にファリスは顔を険しくさせた。
オレがこんなことを考えているなんて思ってもないんだろうな。
こいつにしたら王女たちが自由に捜しにいけないからその代わりにきたってくらいにしか。
光の戦士たちの旅に力を貸したときに仲良くなった海賊、と伝えてある。
その説明が何も気にせず一番スマートにいくからだ。
オレには記憶のない奴にずっと好きでした、なんて言えるほどの女らしい人間でもなければ勇気もない。
ようするにダメダメなのだ。




「なんだ?」


「別に」




今の状態が心地いいと感じるときもある。

でも無性に泣きたくなることもある。

どうすればいいのかと悩みっぱなしだ。

ただ、ずっとこのままではいられないのはわかる。

早く決めてしまわないといけない。









「お前ら何こそこそ話してるんだ」
先導するシャドは拗ねた表情を見せ振り返った。


「べーつーにぃー」


オレは意地悪な笑みを見せるとガキのように拗ねる男に言ってやった。









「世の中には知らなくていいこともあるんだよ」












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