調子よすぎだってことは重々承知の上だ。

こっちが悪いのはわかりきっていることなのだから。

何をされても文句の言えない状況だ。

それなのに目の前の人ときたら・・・。





笑っている。





素直にきれいだなと思えた。







その笑顔に安堵している自分がどこかにいた。










「カケラ」





「・・・・」

互いに沈黙を守り続けてしばらく経った。
部屋に入れてもらったまでは良かったけど。
向こうにしたら俺の第一印象は最悪だし、さっきので余計に気まずいし。
こうして向かいに合って座っていることがまず不思議でしかたない。
あっちは目線を下に向けてこちらを見ない。
俺も俺で顔を上げることが出来ず、お互い顔を見れずにいた。





「大丈夫か?」

「え・・?」

耳に入ってきたのは心地よいハスキーボイス。
彼女のほうから口を開いてくれたのには正直驚いた。
「頭・・・さっき打っただろう?」
「あ、平気!これくらい全然平気っ」
「そうか」


やばい、会話が止まる。
せっかく話しかけてくれたのに。
本当にどう話せばいいかわからないけど、ここで止めたら二度と喋れない気がした。
「その・・ごめん!見る気はなかったんだっもう少し待てば良かったのに。
あんたのこと女だって知らなくて・・・って何失礼なこと言ってんだ、俺」
女だとわからなかったなんて・・バカだろ、俺。
墓穴掘ってどうする。
ほら見ろ、目見開いてこっち見てるじゃないか。
震えてる。
やっぱりショックだったんだよ。
これじゃ何回謝ったって済まなさそうだ。

「あ・・・あの・・」


「くっ・・ふ・・・あははははっ」


へ?笑った・・?


綺麗な形の唇は大きく姿を変えて豪快に笑い声を上げていた。
何故笑う?!
「ご、ごめん。こんなに笑うつもりなかったんだけど・・・」
耐えながら喋る彼女はかなり苦しそうだ。
これがそんなに面白いのか。
俺はただ呆然と笑い続ける人を見つめていた。




























さっきのステラの発言で緊張感の無くなった二人はそれから数刻にかけてお互いのことを話し合った。

出会ったばかりの頃のことや旅を始める前は何をやっていたか。
どうやって知り合ったのか。
旅の間の日常や起こったこと。
あのときの失敗、あのときの喜び。
悲しいことも辛いこともあった。
でもそれ以上に充実した日々。
互いを護り合い、力を合わせて戦ったあの頃・・・。
言葉で語り尽くせないことをファリスは思いに溢れさせた。
ステラは記憶の欠片を見つけることは出来なかったがどこかに懐かしさを感じた。


「なぁ、俺は本当にバッツ・クラウザーなのか?」
「そうだよ。オレが間違えるわけない。それだけは自信あるんだ」
「そうか。えっと・・」
こんなに話をしていて名前を聞いていないことに今さら気づく。
よくよく考えてみるとどう呼べばいいか悩んでしまう。
「ファリスだよ。お前の名前は?」
どうしてそんなこと聞くのだろう。
彼女、ファリスにしたら俺はバッツ・クラウザーのはずなのに。
「・・ステラだ」
俺の名前を聞いてファリスはにっこり笑った。
「そっか。じゃあ、よろしくなステラ」





その笑顔に衝撃を受けた。
どうしてこうも簡単にやってのけるんだろう。
ただ、ただ驚愕だけが俺の体中を駆け巡っている。


この人はまた初めからやろうと言うのか。







消えてしまった俺ではなく、今の俺を相手と見ようとしているのか。







彼は急に顔を伏せた。
いきなりのことにファリスは怪訝な表情を見せ、ステラを覗き込んだ。

「どうした?」

「なんでもない。たいしたことじゃないんだ」



自分はきっと今は変な顔をしている。
見られるわけにはいかない。


まったくこんなに胸が苦しいほど嬉しいと思ったのは初めてだった。




























ステラはノブに手をかけるとファリスを見ずに一番最初に言おうとした言葉を口にした。




「ごめん」




「それはもうさっき言ったじゃないか」
「違う。これは忘れてしまった分と昨日吐いた暴言のだ」


そこまで言い終わると彼女は固まってように動かなくなった。
待ってみても返事がなかなか返ってこない。
怖くなって振り返ると彼女は困ったように泣きそうな顔で優しく微笑んでいた。







「・・・っ!」




「気にするな。不安は誰にでもある、な?」







妙に目に焼きついた彼女の笑み。





それには二つ意味があった。














その微笑の表の理由について知ったのは数週間後。




























もうひとつの意味を知ったのは随分経った日のことだ。












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