最初は何事かと思った。
固まって体が動かない。
恥ずかしさと驚嘆が一度にきて、うまく頭が働いてくれない。
この状況でわかることは2つ。
ほとんど何も身につけてない姿を見られたことと。
扉を開けたのは昨日二度と近づくなとオレ言った奴だったということだ・・・。
もう何がなんだかわからない。
思考回路はパンク寸前だ。
「カケラ」
反射的に扉を閉めた。
とにかく落ち着こうと思った。
何かの見間違いかもしれないし・・・。
扉に背中を預けて座り込む。
足に力が入らなかった。
何を見てしまったのだろう。
心臓が破裂しそうなくらい激しい音をたてている。
あまりにも白すぎた。
腕などの健康的な肌と違い、日に当たらないところは真っ白だった。
全体的に体は細くてあれはどう見ても・・・・・。
男に見えない。
細い男だなって思ったけど・・まさか。
体は発熱したときのようにものすごく熱い。
幻でも見たのか。
頭の中で思考がめぐる。
そうだ、俺はシャドから話を聞いてここに来たんだ。
あとで後悔しないようにするために。
そうだ、あいつがあんなこというから・・こんなことに・・・・。
「まったく、世話かかせやがって」
シャドは大きな息を吐いた。
なんとも言えない表情をして笑っている。
ステラは黙り込んだまま再び椅子に腰をかけた。
「お前の名前、バッツ・クラウザーだってさ」
「・・・」
「いい加減意地張るのやめろよぉ。・・・って名前聞いても何も言うことないのか?」
ぴんとくるものではなかった。
本当の名前といってもそれが本当かどうかなんでわかるわけなく、俺はますます顔を険しくさせた。
「別に何も・・そんなことで思い出せてたら苦労はしない」
いつも回り込んだ話し方をするシャドにわざと突き放した言い方をする。
毎度毎度振り回される身のささやかな復讐だ。
「可愛げのない奴だな。俺が言いたいのはお前の記憶じゃなくて名前のことだよ」
言っている意味がよく理解できなかった。
俺の記憶じゃないのなら何だというのだろう。
「わからないのか?一年前、世界が崩壊の危機だったのは知っているよな」
言おうとしていることがまったく掴めずステラは頷くことしか出来ない。
「では何故俺たちは生きているのか?」
「それくらいなら知ってる。光の戦士たちが現れて世界を救ったんだろ」
記憶がなくても知っていた。
少し前までは毎日がその話で持ち切りだったのだから。
その内容は大体同じ。
どんなに素晴らしい人物だったとか。
会ったことがあるとか。
話をしたことがあるとか・・・。
大抵は町民の自慢話だ。
「じゃあ、その戦士たちの名前は?」
有名だからわかるだろ、と後で付け加えてきたその言い方にムッとなってしまった。
必死で考えている反面、どこか冷静な俺がいる。
またこいつの話に乗せられていきそうだ。
「当たり前だろ。一人は大国タイクーンのレナ王女、
そしてその姉姫サリサ王女。それからバル国のクルル王女と・・・・・あれ?」
指折りしながら名前を挙げていたが3人言ったところで止まってしまった。
光の戦士は確か4人だったから3人の王女と・・・あともう1人いるはず。
3つ折れた指を眺めながら悩んでみたが考えれば考えるほどわからなくなっていくようだ。
「おいおい、最後の1人が重要なんだぜ」
シャドは驚いて声を荒げた。
よりによって俺たちに一番近い人物を忘れるとは・・・・。
ステラらしいといえばそれで終わってしまうのだが。
「バッツ・クラウザーだよ。エクスデスから世界を守った最後の1人は」
「ふーん・・え、あれ?さっき・・・・」
「そ、お前の名前と同じ」
「へ?」
「いやーお前の力量からするとエクスデスってかなり強かったんだなぁ」
でも最後は正義が勝つってか?などとのんきに喋るシャドを横目にステラは状況が掴めずにいた。
光の戦士?
英雄・・・?
・・・・・・・俺がか!?
何かの間違いだ。
自分のことでいっぱいいっぱいの俺が世界を救うなんてできるわけないだろう!
ああ・・頭が痛くなってきた。
それが真実だとは決まってもいないのにシャドの奴ときたら。
のんびりとした笑い声を上げている。
「シャド、それが本当かもわからないのに軽々しく口に出すなよ」
「本当さ。目が言ってた。信じられないのなら自分で聞いて来い」
そう言われて言葉を失った。
何もいえないのだ。
シャドの人をみる目は信じられるから・・。
あいつが信用できると思ったのなら悪い奴ではない。
だが・・・それでも・・・・・・。
ステラは勢いよく立ち上がった。
その拍子に大きな音が出たためまわりが一瞬静かになる。
静寂と同様に何も言わず彼は歩き始めた。
「たぶん今は寝てるって!まだ朝早いし」
「うっうるさいな!誰も行くなんて言ってないだろ」
行動を見透かされてどうしたらいいかわからず、言い返してみたら虚しくなるだけだった。
シャドはというとステラが頼んだ朝飯をつつきながら軽く手を振って見せている。
操られてるみてぇ・・・。
そう思いながらも行動してしまう自分にげんなりしながらも彼は階段を駆け上がって行った。
ああ、どうしよう。
このまま逃げたほうがいいのか?
あっちも気まずくて出てこれないだろうし。
でも、そうすると余計に次話しかけにくくなってしまうし。
昨日あんなにひどいこと言ったばかりだし・・何を言えばいいのか。
第一調子良すぎなんだよ。
シャドの罠にはまったとは言え、気合でどうにかなる問題でもないし。
まだ寝てると思ったのに起きてるしなぁ・・・。
と、とりあえず真っ先に謝罪して・・えーっと、それから・・・・。
ぐるぐるまわる頭をなんとか整理していると扉が動いた。
思いっきりもたれかかっていた俺は重力に流されるまま床に後頭部を打ちつけた。
「いっ・・つぅっ」
「わぁっ悪い!そこにいるとは思わなくって・・・っ大丈夫か?」
焦った声が上から降ってくる。
女にしては低めのアルトの声で。
瞳を開けると綺麗なエメラルド色が視界に入ってきた。
「・・・・・・」
なんて話しかければいいんだろう?
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