記憶を失くすこと。

それがどういうことかオレが一番よくわかってる。

自分が経験したことだから。

オレは拾ってくれた先代のお頭や仲間の奴らしか信じなかった。

他の奴はすべて敵に見えた。

始めのうち、レナやガラフにはわざと冷たくあたった。

オレとは次元が違う人間なんだって、心のどこかで差別していた。

バッツに対しては敵になったら一番しぶとそうだったからかなり辛くあたった気がする。

今思うとすごく嫌な奴だったんだと思う。



だからあいつももしかしたらそうなのかもしれない。





オレは小さすぎたから忘れることも少なかったけどあいつは・・。







きっとオレよりも・・・・・。










「カケラ」





「バッツねぇ・・どっかで聞いたことあるんだがなぁ」


シャドは頭を捻りながら自室に戻るため、二階の廊下を歩いていた。
彼の部屋はこの宿の三階にある。
ここは三階建てで町一番の大きな宿屋だ。
一階には酒場と受付、二階は通常の客が泊まる部屋。
そして三階はシャドのような賞金稼ぎたちに月単位で貸し出されている貸家になっている。
彼もステラもこれを利用していた。
シャドはステラが先に帰ってから、軽く一杯飲みなおすとカウンターをあとにした。
歩きながら彼はさっきの光景を思い出した。
先ほど着いたばかりと思わせる旅人はステラを見てこう言った。



「バッツ」と・・。



その名前が頭から離れないのだ。
どっかの賞金首だったか・・・?
もう少しで霧が晴れるというのにその一歩が踏み出せない。
確かにどこかで耳にした名前なのだが、どうにも思い出すことが出来ない。


もどかしい思いをして歩いていると横切った扉の向こうから切羽詰まった声が聞こえてきた。
この声は聞き覚えがある。
ステラのあとを追っかけまわしている近所の一座の踊り子のものだ。
レダと言ったか、その声音いつもと違い焦っているように聞こえる。
確かあの娘は倒れた旅人を知っているとかでそばについているはずだ。
ステラは目覚めたと言っていたのにどうしたというのだろう。
シャドは興味半分に扉に手を伸ばした。

























「って・・どうした!?医者か?医者なのか??」

目の前の光景に彼は柄にもなく声を荒げた。
菫色の髪をした旅人が胸を抑えて蹲っているではないか。
その旅人の傍らにいたレダはシャドに悲痛な声を出して叫んだ。

「さっきからずっとこうなの!お願い、お医者さん呼んできて!!」

「も・・だ・・・丈夫」

医者のところに走ろうとしたシャドを止めたのは擦れ出た弱々しいものだった。





「どこをどう見て大丈夫なんだ!?」
「いや、本当にもう平気・・」
そう言いながら顔を上げた旅人に彼は魅入ってしまう。



長く美しい菫の髪。

初夏を感じさせる新緑の瞳。

流れるような鋭い眼光が視界にとまる。



随分とまあ・・・キレーな男だ。
シャドはマジマジと麗人を見つめてしまった。


「オレの顔に何かついてるのか?」
「何も。ただ珍しい髪の色だと思って・・」
間違っても見惚れてましたなんて男相手に言えるわけない。
美しい旅人は首を傾げていたが何も言ってこなかった。
シャドはほっと安堵の息を落とした。















「あれ・・?あんたあの時近くにいた奴か」
「そうそう。楽しんでたのに急にぶっ倒れるからびっくりしたんだ」
旅人は彼を見て表情を変えて呟くように言った。
それにシャドは少々嫌味も込めて笑顔で答える。
酒の席をぶち壊されたのだこれくらい許されるだろう。
返した言葉に男は面を食らった顔をしたが笑い続けている彼を見て一笑した。
「悪いことをしたな。今度詫びにご馳走するぜ」
気分を良くしたシャドはにこりと笑って礼を言う。
どうやらこいつはステラと違って冗談が通じる奴のようだ。
あいつは真面目になんでも返してくるから面白くないのだ。
こいつとは気が合いそうだ。



「本当にもう平気なの?」
二人の会話を聞いてきたレダは立ち上がって旅人の顔を心配そうに見つめている。
それに気づいた男は娘の頭に手を置いて微笑んだ。
「ありがとう、レダ。心配かけたみたいだ」
「ううん。元気なってよかったわ」
男の笑みにつられてレダも柔らかい表情に戻った。












「そうだ!オレ、あんたに聞きたいことが・・・っ」


レダの顔を見て何かを思い出したのか男は飛び跳ねるように顔の向きを変え、シャドを見る。
その続きを遮るかたちでシャドは口を開いた。









「俺も聞いてみたいことが山ほどあるんだ。あいつ・・ステラのことだろ?」
























旅人はスッと真剣な表情を浮かべ、無言で頷いた。












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