傷つけた。

一番最初に思ったことは後悔。

顔を見ればすぐにわかった。

言葉を紡ぎだすたびに目の前の人は辛そうに顔を歪めていく。

今にも泣き出すんじゃないかって思うくらい・・。



ズキズキと胸が痛んだ。





どうしてこんなに痛いんだろう。







何も憶えていないのに・・・・。










「カケラ」



「ステラと呼んでくれ」

数日経ったある日、俺に向かって奴は言った。
いきなり何を言い出すのかと思い、呆けているとそいつは慌てた様子で付け加えた。
「名前・・いつまでも名無しのままじゃやりにくいと思って」
「思い出したのか?」
男は首を振った。
どうやら自分で考えたようだ。
確かに呼び名があったほうが便利だけど・・・。
「ステラって女の名前じゃないか」
「わかってる。でもそれでいいんだ」
ほかの名前はどうだと軽い調子で提案してみたが、いつまで経ってもうんと言わない。
俺はため息をついて頭を掻いた。
もしかしたら何かの手掛かりなのかもしれない。
変える気がなさそうなので、それ以上何も言わなかった。


「じゃあステラ、お前はこれからどうするつもりだ?」
俺の問いかけにステラは急に雰囲気が変わった。
脆くて壊れそうな表情から一瞬で変化した強い瞳でこちらを見てくる。
「体がある程度動けるようになったら出て行く。これ以上迷惑はかけられない」
「俺、助けた礼をまだ貰ってないんだけど」
なんとなくそう言うのではないかと思っていた。
だから意地悪な笑みを見せ、俺は楽しげに言ってやった。
すると奴はピタリと体を固める。
そして己の懐を弄り、袖を振って何かを確かめている。
また動きを止めてゆっくりと顔を上げて申し訳なさそうな目をした。
「ごめん。俺、無一文みたいだ・・」
返事を聞いた俺は堪えきれなく吹き出した。
大声を出して笑う姿をステラは不思議そうに眺めてくる。
あんなに真面目に返されるとは思ってもみなかったから。
俺は我慢もせずに数分間笑い続けた。




「そんなに笑うことないじゃないか」
癖のついた栗毛を揺らしながらあいつは顔を顰めた。
「悪い、悪い。そういう答えが返ってくるとは思ってなかったからな」
口元が緩むのを止められずに半笑いのまま謝った。
ステラは本気で俺に礼をするつもりだったらしい。
ぶつぶつと囁くような文句が耳に入ってきた。


「まぁ落ち着いてくれよ。これは提案なんだが・・・」



俺はこいつが目覚める前から考えていたことを口にした。
ベットの上に布に包んであった剣を転がした。
変わった形をした柄。
全体的に紅を思わせる騎士剣。
刀身には古代に使われていた文字が刻み込まれている。
見たこともない模様が剣先まで描かれていた。
仕事柄たくさんの武器を見てきたがこんな剣には初めて出会った。
名前もわからない。
でもその剣から垂れ流される気は威圧的だ。
俺にはこれを使いこなすことは出来ないだろう。
持っているだけで重みを感じる剣だった。

「これはお前を助けたときに近くにあった。お前のものだと思う」
「変わった剣だな」

ステラは剣を鞘から抜き取り、光に当てて眺めた。
美しい赤銀を放つその剣はランプを跳ね返しギラギラと輝いている。
その輝きだけでも悪寒を感じる俺に対し、奴は平気な顔をして剣を眺めていた。
「持ってても平気か?」
「ああ」
「そこで本題だ。ステラ、賞金稼ぎにならないか?」
「え?」
不思議な剣に集中していたステラは目を見開いて驚いていた。

「その剣をもっても平気な顔をしてるお前の腕を知りたいんだよ。俺に対する礼はそれでいい。
それに金も稼げるからお前にしたら一石二鳥なお得な話だと思うんだが?」

こいつを拾った当初はどれだけ金を貰おうかとしか考えていなかった。
でもあの剣を見つけてから欲望が薄れてしまうくらい気になった。
目の前の男の実力が・・・純粋に。
どんな戦い方をするのかと、ただそれだけが気になっていた。


「どうだ?嫌か?」

ステラは少し考え込むとふっと困ったように微笑んだ。

「命の恩人にそう言われたら断れないだろ」
「男ならそうこないとな!」


俺は満足気にニヤリと唇を歪ませた。








































ステラが普通に生活出来るようになったのはそれから一ヶ月経った頃だ。
早々とギルドに登録を終え、俺とステラは仕事をこなしていった。
あいつの実力は計り知れないものだった。
一ヶ月前に死に掛けていたとは思わせない強さ。
普段は少々どんくさいところがあるが、剣を持つと人が変わったように素晴らしい剣士になる。
仕事を始めて半年を過ぎる頃には巷では噂が流れるほど有名になっていた。
世間で騒がれればあいつの記憶の手掛かりが掴めると思っていたがそう簡単にいくはずもなく。
当の本人も初めてあう人間には会話をするのが難しいらしく難航していた。





そうこうしているとあっという間に一年が過ぎた。
手掛かりらしい手掛かりもないままステラはギルド一の賞金稼ぎになっていた。
あいつはよく手掛かりがないのは自分を心配する奴なんていないからだと言った。
そんなわけねぇだろって毎回返してやったけど。
























ある日、いきなり事が動き出す。



菫色の髪をした旅人がステラの肩を掴み、「バッツ」と呼んだ。





あいつは否定したけど。







旅人の必死の目を見て俺は思った。











ステラ、きっとお前は誰かの大切なものなんだぜ。













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