今まで無事ならそれでいいと考えていた。

もう居なくなってしまったと思っていたのだから。

生きているだけで、それだけで十分だって。

それにあんなふうになっているなんて思っても見なかったから・・・。

だからあの時痛かった。

他人に対する瞳を向けられて、とても辛かった。



何もかも忘れ去ってしまったあなたへ







これ以上望むことはオレのわがまま、ですか?










「カケラ」



それは約一年前、大嵐の日の出来事。

俺は仕事を終え、ギルドに帰る途中だった。
雨と風がだんだんと強くなってきたため帰途を急いでいた。
こんなにひどい嵐は初めてだ。
俺がジャコールに移り住んでから、この町がこのように荒れたのは見たことがなかった。
淡い橙の光を見つけ、助かったと心の中で呟いた。
これ以上荒れてしまったら自分がどこに進んでいるかわからなくなるところだったからだ。


「あと・・もう少しだな」


垂れ下がってきた前髪をかきあげながら息をつく。
帰りを待ってる女などいないのに家路を急ぐ自分に腹が立った。
難しい顔をして突っ立っていると後方から鼓膜を破るような音が落ちてくる。
周囲がまばゆい光に覆われた。
慌ててマントで顔を隠し、目を庇う。
マントで覆う直前に赤い何かが目の端に映った。
そっと顔を上げると木の焼けた焦げ臭いにおいが鼻に衝いた。
近くの森にでも落ちたのだろう。
雷が落ちる前に見た赤色はなんだろうと思い、見えた方向に歩を進める。







あの雷がなかったら俺は気づかなかったかもしれない。



きっと気づかずに通り過ぎていたに違いない。






大きな木の麓に赤いマントと足らしきものが見えた。
生き倒れか?
こういう天気の日にはよくあることだ。
とりあえず近づいてみることにした。
マントをとるとそこには全身傷だらけの青年がいた。


「げっ」


思わず声を上げてしまった。
見つけなきゃよかったかもしれない・・・。
二十歳を超えるか超えないかくらいの年若い青年。
彼の身体全体には傷があり痛々しい。
一番ひどいのは腹の傷。
軽く治療された痕があったがそれも空しく傷口が開ききっていた。
降り続ける雨と流れる血で髪と服の元の色が判らないくらいに黒ずんでいる。




俺はごくりと喉を鳴らした。
誰が見ても手遅れだと思っただろう。
なのに彼は生きていた。
弱々しく心臓は鼓動を奏で、微かに息を吐いている。
まるで何かに守られているかのように。
とても不思議な奴だった。











いつもなら面倒事には関わらない主義の俺はそのまま放置していったはずだ。
あのときの俺は俺じゃなかったのかもしれない。
気づいたときにはその男を背負い、ギルドに駆け込んでいた。
誰もが目を見開いて俺を見た。
夢でも見ているのかと目を何度もこすっているやつまでいた。
自分でもらしくないことしてるってわかってんだからそんなにマジマジ見るなよ。
四方からちゃかした言葉を投げてくる奴らもいたが無視して医務室の扉を蹴り開けた。









男は一命を取り留めた。
筋肉の鎧に助けられたのだと医者は言っていた。
年齢してはしっかりした体つきをしている。
何やってこんなことになったのか・・。
助けてやったんだから礼はしてもらわなきゃ俺の気も済まないし。
そのときはそんなのん気なことしか考えてなく後で俺は後悔することになる。























そいつが目を覚ましたのは四日経った日のことだ。
見つけたときの印象がすべて崩れ落ちた気がした。
閉じられた瞳は青空のように澄んでいて、黒だと思っていた髪はきれいな栗色だった。
無造作にはねた髪は思っていた年より幼く感じさせる。
だが体は出来上がった男の肉体をしている。
こんな違和感をもつ男に会ったことは一度もない。
面白くなった俺は話しかけてみた。
どんな反応を返すかと思って。


「目、覚めたんだな。俺は賞金稼ぎのシャド。お前は?」


男はこちらをみて少し微笑んで見せると口を開く。


「あんたが助けてくれたのか?助かったよ。俺は・・・・・」


にこやかに喋りだしたもののピタリと唇が動かなくなった。
そいつは顔を顰めて唸り始める。
数十秒悩んだ男は顔を上げてこちらを見てすぐさま言った。















「俺の名前って何?」
















俺が聞きたいんだけど・・・・。



それがステラとの出会いだった。













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