笑う姿は底なしに明るい。

抱きしめてくれた腕は、手はとても温もりを感じる。

瞳は大空ように広くて。

髪は風のように流れていて。



苦しいとき、辛いとき何も言わず側にいてくれた。

優しい

優しい人。









目の前にいる人は誰だ?










「カケラ」



「本当に助かっちゃった。ありがとう」
踊り子姿の娘はにこやかに微笑むと手を差し伸べた。
「礼を言いたいのはこっちのほうだ。わざわざ村まで乗せて行ってくれるなんて」
「気にしないで。私たちも帰る途中だったもの」
ファリスは馬車の中をぐるりと見回した。
街道で魔物に襲われている大道芸人の一座を助けたのは一刻前。
幸い敵は多くなく手こずるほど強くなかったため彼女一人でも十分対処できた。
謝礼金を手渡されそうになったが何とか断り、先を急ごうとしたが強引に引き止められた。
偶然、次の目的地が彼女たち一座の本拠地だったためお礼にとこうして村まで相乗りさせてもらうことになった。
ファリスは見たこともない道具や武器に釘付けになっていた。
世界中旅をしているというのにまだまだ知らないことが多い。
いろいろ目移りしているとふと視線が絡んだ。
幼い少女たちがこちらを珍しそうな目で見ていた。
そのまま逸らすのも気が引けてとりあえず笑って見せたのだが逃げられてしまう。
気まずくなっているとくすくすと声が漏れぬように数人の女たちの笑い声が聞こえてきた。
どうやらこの一座は女性だけで出来ているようで男がまったくいない。
そのため魔物に襲われていたのだが・・・。
ずっと男所帯で生活していたためか同性にも拘らずこの場の空気に馴染めずにいた。








「えっと、ファリス・・さんだっけ?」
「ファリスでいいよ。何だ?」
馬車に乗ってから隣に座り一座のことを教えてくれた少女が興味津々に聞いてきた。
「ファリスは人捜ししてるのよね」
「ああ、もう一年になるかな・・」
「どんな人か聞いていい?私たちいろんなとこに行ってるの。もしかしたら見てるかも知れない」

急かす様に聞いてくる少女に苦笑し、ファリスは語りだした。




求め続ける人のことを・・・。






















「・・・その人って男の人よね?」
ずっと黙って耳を傾けていた少女は突然口を開いた。
「そうだけど、それがどうかしたか?」
話したことがオレより少し背が高いだとか、強い剣士だったこととか、ものすごく明るいやつだとかだ。
それで女と思うほうがどうかしているだろう。
少女は溜息をつくと頬を膨らました。
「あなたかっこいいからどんな美人の恋人かと思って楽しみにしてたのにぃ。男の人だなんて」
その言葉に呆気に取られた。
自分は男に間違えられていたのか・・・。
昔ほど男っぽくしてるつもりはないが、でも格好が格好だから間違えられてもおかしくないか。
どうやら長年染み付いた性格は治ることはなさそうだ。
ファリスは頭に手を当てて溜息をついた。




「あっでも外見だけなら似てるかもしれないなぁ・・」
「え!?どっどこで見た!」
ぽつりと漏らした少女の肩をファリスは鷲掴みにした。
悲鳴を上げ辛そうに顔を歪めたのに気づき手を慌てて離す。
「落ち着いてなんて言ってられない、よね。ずっと捜してたんだもんね。その人は村にいるわ。
私たちの村で今は賞金稼ぎみたいなことしてるの」
「賞金稼ぎ?」
「そうよ。最近じゃ結構有名になってるわ。彼、とても強いの!」
キラキラさせた目で少女は自分のことのように嬉しそうに話し始めた。
本当に嬉しそうに話してくれる。
が、突如悲しそうな顔になる。
「でもね、少し冷たいの。私笑った顔も見たことないの。だから・・ファリスの言っている人とは違うわ」
大きな瞳に涙を溜め、唇を噛んで我慢している。
先ほどの笑顔はどこに行ったのか。
いきなり表情を変えた女の子にファリスは内心かなり焦っていた。
その焦りの中で一つの答えが頭の中に浮かんだ。
考えただけで嬉しくて、でも悲しくてそんな正反対の感情って言えば。
自分でも思い当たることだった。
「そいつのこと、好きなんだな」
少女の姿を見てファリスは思いついたように口にした。
言った言葉に反応した少女は耳まで真っ赤にして口をパクパクと動かすだけだ。
何故バレたのだという顔をしている。
年頃の少女らしい反応を見て吹き出した。
大きな声で笑い声を上げた。
「もう!ひどいわファリスっ笑うなんて!!」
「ごめん、ごめん。で、どんな奴なんだ?賞金稼ぎならオレも知ってるかもしれない」
真っ赤なまま怒り出した彼女を押さえ宥めた。
口元はまだにやにやしているが怒りの矛先を違う方向に向けたので大丈夫だろう。
案の定少女はぱっと表情を変え嬉しそうに言った。
「きっと知ってると思うわ!本当に有名なのよ。だってすごく高額な魔物を退治しちゃったんだもの」
「高額って・・・・あれか?女みたいな名前のやつか?」
「そう!それよ!やっぱり知っているのね」
ファリスの答えに少女は一段と喜びを込めて奇声を発した。
本当にコロコロとよく表情が変わる。
その姿にクルルのこと思い出しファリスは一笑した。
そして興奮が冷めない少女の肩を軽く叩く。



「お嬢さん、村に着いたみたいたぞ」
「やだっ大変!早く片付けないと・・あ、宿屋はそこの角を右に曲がったところにあるから!
酒場と一緒になってるから人捜しには苦労しないと思うわ」
彼女は慌てて立ち上がると持てるだけの荷物を持ち軽やかに馬車から飛び降りた。
親切に宿まで教えてくれた少女は元気よく走り出す。





「ありがとう!えーーっと・・・」




「レダよ。レ・ダ!また会いましょう」




レダは手を振りにっこり笑った。



「レダ、ありがとう」



ファリスもそれに答えて手を振り返した。












































宿の前に着き息を吐いた。
ここでは少しでも手がかりがつかめるだろうか。
毎回こうして宿屋や酒場に入る前に思う。
深呼吸をして気持ちを固めると扉を押した。
開けてすぐ受付があった。
そこには優しそうな女将が座っている。
「いらっしゃい」
「一人だ。ひとまず三泊分お願いするよ」
女将はかしこまりました。と返事を返すと記帳を進めた。
名前を書き終わると部屋の鍵を受け取る。
「夕飯はもう食べれますから隣の酒場の方で注文して下さいね。あと階段もそっちにありますから」
「わかった。ありがとう」





今日はもう遅いし明日から捜そう。
先に風呂に行くかな・・。
いや、まず飯か。
食べたいのがなくなってたら嫌だもんなぁ。

うーん、どっ・・・・。





部屋に行こうと酒場を横切ろうとしたときだ。











目の前に夢にまで見た背中があった。





癖毛の栗色の髪。

グラスの持ち方。

ここから少し見える顔立ち。

座り方。





己の中のすべてが彼だと告げていた。







知らぬ間に荷物も掘り出して走っていた。

肩に手をかけ振り向かせる。





瞳に映ったのは空色。

少し長めの前髪。

いつも笑いかけてくれた唇。





「バッツ・・・」

今にも消えそうな声で名前を呼んだ。

歓喜で涙が溢れた。

やっと、やっと見つけた。

ずっと会いたかった人。



頬に手を伸ばす。

触れて確かめたかった。

幻ではないことを。




「・・・っ」




伸ばしたては触れることはなかった。

手の甲が熱い。

一拍おいて手が弾かれたことを知った。



















「あんた・・誰だ?」














目の前が真っ暗になった。




絶望という名の深い闇。













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