夢を見ました。
誰かが泣いています。
座り込んで、何かを叫んでいるようです。
声がよく聞き取れません。
でも、その声はとても悲痛でこっちまで泣きそうになってきます。
泣かないで欲しい、そう思います。
そんな悲しい思いをさせたくないのです。
泣き止んで欲しくて、笑って欲しくて近づきました。
その人は振り返ります。
夢はそこで終わりました。
「カケラ」
「そうか・・、見たことないか。ありがとう」
答えてくれたマスターに礼を言うとカウンターから立ち上がった。
ここもハズレ、だな。
ふうっと溜息を落とすと革袋を持ち直した。
ここでいくつ目だろう。
数えるのをやめてしまってからどれくらいになるか。
もうタイクーンを出て1年が過ぎようとしていた。
クルルからもらった情報は少なすぎた。
あくまで”らしき”人物。
その人物に行き着いたのは3ヶ月ほど前。
別人だった。
髪はあいつと同じ栗毛だったけど、癖毛ではなかった。
青い瞳と書いていたけど実際は深い青緑でその人によると酒場のランプの光でそう見えたんじゃないかって言っていた。
とてもいい人だったけど。
だけど・・あいつじゃなかった。
振り出しに戻ったオレの旅は毎日が同じことの繰り返しだ。
あいつの特徴を話す。
誰も知らないと口々に呟く。
そうか、と言って礼を述べてその場を後にする。
その繰り返し。
何度聞けばたどり着くのだろう。
最近ではやっぱりいないんじゃないって・・・思うようになってしまった。
眠れない日も多いし、寝ても朝目覚めると涙を流していた。
辛いと感じるときもある。
でも。
でも歩みを止められないのは認められないから。
止まったらそこで何もかも消えてしまいそうで恐いから。
あいつの優しさも、思い出も、この想いもすべてなくなってしまうんじゃないかって。
そう思うから歩みを止められずにいた。
「ええ!?あの50000ギルもする魔物を倒した奴がいるだって!」
酒場を出ようとするとき横にいる男が心底驚いた声で叫んだ。
本当か?と話し出した隣の賞金稼ぎの男を疑わしい目を向けている。
へぇとファリスは声を鳴らした。
この地で町や村を襲い、恐れられていた魔物の首を獲った奴がいるらしい。
「最近になっていきなり出てきた奴だよ。ほら、この間もここに来てただろ?」
驚嘆の声に満足し、賞金稼ぎはまるで自分のことのように自慢げに言った。
「あっ!あいつか?えーっと何だっけ・・女みたいな名前の奴だ!!」
「そうそう!そいつが倒したんだ」
男は指を鳴らし思い出したことを素直に喜んでいる。
よく聞く話だった。
この頃巷で話題に上がらない日はないと言い切れるほどその話は耳にしていた。
数ヶ月前にいきなり現れ、来た依頼は全部こなしている凄腕の戦士。
どんな危険な仕事でも必ず成功させるらしい。
ただわからないのはその人物。
人と付き合うのが苦手なのか噂をしている誰に聞いてもどんな奴なのかもわからない。
名前に関しても”女みたいな名前”としか聞いたことがない。
顔もフードを被っているらしくよく見えないとか。
どう考えても怪しい奴なのだが急に興味が惹かれた。
会ってみたいなと思ってしまった。
もともと強い奴に出会うとじっとしていられない性質だから余計にそう思うのかもしれない。
「なぁ、そいつに会うにはどこに行けばいいんだ?」
気づいたときにはすでに話し込む男たちに行方を聞いている自分がいた。
極上の笑みを湛えていることにファリスは気づいていなかった。
ファリスが酒場を出て、間もなく一人の男が入ってきた。
黒いマントを頭からつま先まですっぽりと被り、ゆったりとした足取りでカウンターまでやってきた。
席に腰を掛けず、主人の前に麻袋を置く。
フードから微かにのぞかせる青い瞳が真っ直ぐにマスターを見据えていた。
「マスター、頼まれた分だ。遅くなってすまない」
「いいや。あんたに頼めば確実だからな。どんなに時間がかかってもかまわないさ」
酒場の主はにっと笑みを見せると硬貨を投げた。
男はそれを受け取ると懐に収める。
「ただでさえ最近は魔物退治とかで忙しいだろ?こんなこと頼んで悪いと思ってるんだ」
洗ったグラスを丁寧にふき取りながら彼は申し訳なそうな声を出した。
あの高額の魔物を討ち取った人間になんてことを依頼しているのだろうと感じているのだ。
それも無償に近い額で。
マスターの気の抜けた言葉を聞いて男は軽く吹き出した。
「それは気にしなくていい。薬草を集めるのは俺の分のついでだから」
まだ含み笑いが残る声音で清々しく言う。
それだけ言い終えると男は片手を上げて挨拶をすると踵を返した。
「ステラ、飲んでいかないのか?礼に奢るぞ」
「今日はシャドと約束があるんだ。また今度ご馳走になるよ」
ステラと呼ばれた男は口元を歪ませると酒場を後にした。
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送