夢を見る。

毎日、毎日同じ夢。

いつも同じところから始まって同じところで終わる。

伸ばしても届かない手。

叫んでも叫んでも意味のない言葉。

名前を呼ぶと笑う。

優しく慈しむように。

彼は微笑む。




泣き崩れている自分がいた。










「カケラ」



「・・・っ」



いきなり目が覚める。
繰り返される夢。
悪夢ともいえる消えない記憶。
ファリスは起き上がると頬に手を添えた。
流しているのだ。
涙を。
あの決別のときからもう2ヶ月。
流し続けた涙はもう涸れてしまったのかと思った。
それなのにまだ流れる。
どうして自分はここにいるのか。
何故彼はここにいないのか。
帰り着いたときからそればかりを考えている。


「バッツ・・」


もう何度も呼んだ。
返事の返らない名前。
ファリスはベットに倒れ込み声が漏れぬように泣いた。

















「姉さん、今日はとてもいい天気よ。外でお茶でもしない?」
「オレは・・いい」
レナは毎日少しでも元気を取り戻してもらおうと様子を見にファリスのところにやってくる。
だが返ってくる言葉はいつも力のないものばかりだった。
ファリスはいつもボーっと窓の外を眺めているだけで他は何もしようとしない。
この頃では無表情、無感情になってきている。
次元の狭間から帰ってきたときのほうがまだ痛々しい中で感情が渦巻いていた。
あのときの彼女は彼女ではなかった。
泣き崩れ、彼の名前を何度も叫んでその声を、その姿を見た誰もが悲痛な表情を見せていた。
胸が痛くて、苦しくて、あれほど心に激痛が走ったことはなかった。
痛すぎて死んでしまうのではないかと思うくらいに。
まるで世界の終わりを告げるようなそんな音だった。





「レナ様、お手紙が届いております」
レナがファリスの部屋の前で立ち惚けていると大臣が一通の手紙を差し出した。
慌てて受け取り、手紙の裏を見た。
封の印はバルのもの。
クルルのからの手紙だ。
レナは急いで封を開けた。
クルルはあの後すぐにバルに戻ったのだが、ファリスのことが心配で週に1度必ず手紙を書いてくる。
その文面はあの子らしく、ファリスのことはもちろんレナを元気付けようと明るい話題も忘れない。
この間はシドとミドが城に来てくれたことを面白おかしく書いてあった。
何度この手紙に救われているだろうか。
そう思いながら便箋を抜き取り目を通し始めた。
いつものように「やっほー元気?」から始められている。
微かに笑いながら読み終わるといつもより枚数が多いことに気がついた。
不思議に思い捲って目を通す。
そこには驚くべきことが綴られていた。
思わず口に手を当てる。
レナの驚嘆の表情につられて大臣も文面を読み始めて固まった。
2人は顔を見合わせ押し黙る。
「これは真でございますか?」
信じられないという顔をして大臣は口を開く。
「クルルが独自で調べ上げたと書いてあるわ。情報収集力ならうちよりバルのほうが上だもの・・間違いではないはずよ」
手をカタカタと震わせながら自分を落ち着かせるために息を吐いた。
急いで数人の兵を向かわせましょうと言い、大臣は早足で兵舎に向かい出す。





「待って大臣!私の我が儘聞いてくれるかしら」


レナは強い瞳で大臣に思いついたこと話した。

















「姉さん、少し話があるの・・。いいかしら?」
軽くノックをして開いた扉の向こうからレナが顔を覗かせた。
ファリスはレナのほうに目をやるとすぐに戻す。
入ってもいいという合図だ。
レナはファリスの前に屈み目を合わせる。
何事かと思い、いつもにも増して真剣な瞳の妹をファリスは見つめた。
萌葱の瞳が軽く円弧を描く。
「単刀直入に言うわ。姉さん、城を出て行って」
レナのいきなりの言葉にファリスは声を失った。
「な・・何・・・を」
「ああっ違うの、姉さんが邪魔とかじゃなくて。これを見て」
手渡されたのは読み終えた手紙。
開くとクルルの可愛らしい字が広がっていた。
これが何だと言うのだろう。
内容は一言でいってしまえばただの世間話。
さっさとたたんでレナにつき返した。
「最後まで読んでないでしょう。もう1枚あるのよ」
レナは溜息をつくと読んでないほうの1枚を手に置いた。
強い調子で言われ、しぶしぶ目を通して目を見開いた。






ここにはこう書かれていた。






−バッツらしき人物を見たという情報が入った。と・・。−






何かにとりつかれたような速さでファリスは文面を読み通した。
信じられず何度も何度も読み返す。
手に力が入り便箋に皺が走る。
細かく揺れる手に白い手が乗せられる。
ファリスは顔を上げレナを見た。
涙を流しながらレナは微笑んで言った。
「行ってきて、姉さん」
「いい・・のか?」
ポタ、ポタと便箋に水滴が落ちる。
ファリスは自分が泣いているのだと悟った。
いつものような悲しみの涙ではなく、また別の。
光が見えた気がした。
「本当に・・・いいのか?」
再度聞きなおした。
こんな状態でもすごい迷惑をかけているのにいなくなることでまた迷惑をかけるのではないかと思った。
レナは大きく首を振る。
「いいの、いいのよ!行って!!捜して見つけてきて・・」
「レナ・・・っ」
力強く妹を抱きしめた。
ただ嬉しくて、胸がいっぱいになって涙が溢れて。
強く、強く可愛い妹を抱きしめた。




この後2人は泣いて泣いて泣き続けて一緒のベットで眠った。

















夜明けの光が窓から差し込んできた。
ファリスは目を覚ますと隣で眠る妹を起こさぬようにベットから抜け出した。
テーブルに置いてある箱を開ける。
そこには見慣れた旅装束が入っていた。


もう、見ることもないと思っていたのにな・・。


昨夜、レナから受け取ったとき本当にそう思った。
慣れた手つき袖を通し、バンダナを巻き、武器を装着する。
旅のとき使っていた革袋を棚から引っ張り出した。
とりあえず最低限のものを詰め込み立ち上がる。





「準備はもう出来た?」
「あ・・ごめん起こした」
「ううん。自分で起きたのよ」
ばつが悪そうな顔を見せたファリスにレナが笑って言った。
それからポンと手を叩き言い続ける。
「そうそう!昨日言い忘れてたんだけど、バッツ見つけてくるまで帰ってくること許さないからね」
「厳しいなレナは・・・」
「当たり前でしょ。彼を見つけるのが目的だもの。何のために城を出ると思ってるのかしら私のお姉様は」



“お姉様”という単語に反応して2人はふきだした。










「じゃあ、お元気で」





「ああ、行ってきます」













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